01.お勧めの1冊

≪蒲生邸事件≫
宮部みゆき著  文春文庫

先月に続きタイムトラベルものを。

現代の高校生尾崎孝史はホテルで火事に遭遇し時間旅行者平田に救われ、2.26事件前夜昭和11年2月の蒲生邸にトラベルします。

ここで起きる事件の詳細は割愛しますが、私が一番印象に残っているのは孝史が現代に帰る直前、蒲生邸で働く美しく優しい女中向田ふきとの別れのシーンです。

孝史はこれから起きる太平洋戦争からふきを守る為、空襲の恐ろしさを熱弁しふきを現代に連れていこうとしますが、自分だけ逃げ出せないと断られます。

それなら昭和の時代に残ると言う孝史を、ふきは2.26事件で決起した軍人に投降を呼掛けたビラになぞらえて、「今カラデモ遅クナイカラ原隊ヘ帰レ。」(自分の時代に帰りなさい)と諭します。その代わり現代での再会の約束をしたのです。

平成6年4月、現代に帰った孝史にとっては約1ヶ月、でもふきにとっては58年の歳月を要する約束の日、二人は会えたのでしょうか・・・

本書では未来を知った人間がその有利性を利用しない、平田の言葉を借りれば「抜駆けしない」ことがテーマで、ふきも抜駆けせずにその時代を生き抜いた1人でした。