08.山彦日記  5月 ご神木

山彦は田舎に住んでいる。昨夜村の寄り合いで珍しく検討事項があった。村の神社のご神木が倒れかかっているので、どうしようかという相談である。その神社は山の頂に祀られており、そのご神木がわずかずつではあるが社に向かって傾いているというのだ。ご神木になっているくらいだから数人でやっと抱えられるくらいの太さがあり、高さもかなりある。さらに調べるともう一本同じような大木がよろしくないらしい。

木にも寿命がありご神木とはいえいつかは倒れる。その場合次のご神木を定めてあがめるのが慣わしというから致し方ない気もするが、倒れた下が社(やしろ)では大問題である。

では「切るしかない」となっても一筋縄ではいかない。費用がびっくりするほどかかる。一本80万円、2本でなんと160万円!というのだ 作業の内訳を聞くと山の急斜面であるから大きな機械は使えず、木の上の方から少しずつ切っていくらしい。そこまでどのように登る?安全な足場は可能か?何を使って切るのだ? 山彦の想像を超える作業である。

もしこの大木が人里離れたところに人知れず立っていたらどうだったであろうか。最初はほんのわずかな傾斜が、徐々に大きくなりしだいに傾く速さが増していく。そしてある一点を超えると周りの木をなぎ倒しながら、風を巻き起こし大きな音をたてて倒れる。鳥や獣たちはおびえ驚き逃げ、ある虫は風に飛ばされ、またある虫たち木々の下敷きになるかもしてない。それも一時でしばらくすれば、やがてもとの静かな森に戻っていく。

薫風麗しく、日ざしはさわやかなこの季節。木々はのびのびと葉を広げ、私たちを健やかな心地にさせてくれる。巨木の足元にふれると厳かな気持ちになるのは山彦だけではないだろう。そうだ切られてしまう前に一度ご神木に会いに行こう。「切った木が売れればいいなあ」なんて

不埒な思いはきっと見透かされてしまうが、敬い尊ぶ気持ちは間違いないのだ。