08.山彦日記  6月 梅干し

山彦は田舎に住んでいる。田舎では早くも6月の声を聞くと心なしか空気がしっとりしてくる。木々の緑も日を追うごとに濃くなって、夜 帰宅の車から降りると懐かしい香り。あ~一年ぶりにささやきかけてくるみかんの花の香り。そろそろ老母の梅干しつくりのスタートだ。

寒い中ひかえめで健気な花で春を告げてくれた梅の花もいつの間にか丸々とした実になっている。梅の実は木と身をつなぐ軸が短いので枝から直接生えているように見える。コロンとした実が必死に枝にくっついているようにもみえ、これまた健気に思えかわいいのである。

完熟の梅はおいしそうなアンズを思わせる香りがするが、実際食べてもおいしくない。梅を生食してはいけないことは周知のことで賢明なあなたは決して真似をしてはいけない。食いしん坊で好奇心に負けた山彦は昔こっそりかじった。結論、こんな渋いもの毒が無くても誰も食べないぞと舌に刻み込んだ。

梅干しの作り方を簡単に説明すると①梅を一か月ほど塩漬けにする②別にシソの葉を塩漬けにする③天日でまんべんなく干す④梅とシソの葉とその汁を合わせて漬込む。この間最低4ヶ月はかかるだろう。

昔の人は試行錯誤の努力家であった。この渋い梅の実を美味しく食べられるように加工すること、長期間保存できる方法をどういう経緯で会得したのであろうか。自給自足を将来の目標にしている山彦にとって食品保存の方法はどうしても学びたい知識である。今は冷蔵庫や冷凍庫に考えもなしに放り込んでいるがそこに知恵はない。

石川県能登地方には猛毒のふぐの卵巣を糠漬けにして、安全でしかも深い旨味に変えてしまう製法があるらしい。その技術が確立されるまでに何人の人々が犠牲になったのか想像するのも恐ろしい。しかし、それは山彦が理想とする究極の保存方法であり美学がある。合掌