08.山彦日記

我が家の敷地の一角で枇杷を育ててもうしばらく経つ。山彦が手ずから植えて今の木で3本目である。といっても3本ともすくすく育っているのではなく、現在1本しかない。残念ながら最初の1本は手入れが悪かったらしく2年を待たずして立ち枯れ。2本目は植えたばかりのころイノシシに荒らされやはり根付かず断念。3本目にしてようやく山彦の背丈ほどに成長した。
枇杷の苗木の値段は非常に高い。記憶も定かではないが普通のみかんの苗木の3倍くらいしたと思われる。けちな山彦が大枚を払ってまで枇杷にこだわるのはやっぱりあのさわやかで澄んだ甘さと独特の食感が山彦をとりこにする。
枇杷の実のお尻から手で皮をつまんでツルっと剥くとやさしげな黄色がかったオレンジ色の果肉があらわれる。枇杷を持つ指が果汁で濡れるのをものともせずかぶりつく。ほどよい噛み心地とやさしい舌ざわりとともにあふれる汁、あ~美味しい!
と言いつつも実際にはこんな体験はしばらく遠ざかっている。さみしいことである。そもそもここまで気にかかるのは「子供のころ食べた枇杷がとてもおいしかったこと」につきる。
昔の田舎では食べ物は自給自足することが多く、特に果物とかの必需品でないものは家の周りに植えてその季節にありがたくいただくものであった。柿や栗、そして枇杷然り。
かつて山彦家の枇杷の木はみかん山に植えられていた。枇杷の時期にわざわざ取りに行く子供山彦。「家の近くにあればいいなあ」と恨めしく思ったが、それは「植えると病人が出る・家が不幸になる」という迷信があった為と思われる。
だんだん山彦も山に枇杷を取り行くほど暇でなくなると、その場所ももう分からない。わからないけど食べたい。そして苦節10年である。愚息は言う。「買ったほうがずっと安いよ」
いくつも成らないし、ハイハイその通りでございます。しかし、愚息よ。田舎暮らしの醍醐味は自給自足することにあるのだぞ。絶対買わないぞ、来年こそは豊作だ、きっと…