08.山彦日記

山彦は田舎に住んでいる。最近近所のコンビニ(といっても車で10分であるが、)のアルバイトが新しい人になった。たぶん高校生であろう若者である。
田舎のコンビニは都会のそれとは雰囲気が若干違い、親しげに「お母さんは元気にしている?」「○○君大きくなったね」なんて店員に声をかけるお客さんがいてもお客さんが列を作ることはない。どこでもどんな場面でも田舎はのどかなものである。
 山彦もかつて学生の頃某地方都市でバイトの経験がある。山彦のバイトは今でいえば「デリバリー」、当時は「出前持ち」といわれた 料理を配達する仕事であった。今でこそ「デリバリー」は小気味よくデザインされたバイクや車でさっそうとピザやお寿司をお届けしている姿が見受けられる。
 山彦の場合勤務先はラーメンやチャーハン,野菜炒め定食,焼肉定食などなんでもござれの大衆食堂であった。運搬手段は自転車と「おかもち」とよばれる手提げのアルミ箱に料理を入れて配達するのである。雨の日も風の日も、雪の日はお休みしたが。
 一人前の出前持ちには料理の入ったおかもちを持ちつつ自転車を操る運動神経と体力、お届け先で代金をいただき暗算でお釣りを返せる頭脳を要する。さらにはお客様に愛想よく接するサービス精神を持つことも重要なポイントである。
 頭脳には疑問符がつくが他の二つにたけていた山彦はおかげさまでそれなりに勤め、親元での暮らしと違う社会との接点をそれなりの作れたことは幸いといえる。
加えて食べ物屋で仕事をすることのメリットは「まかない付き」である。食堂の女亭主は豪気な人で好きなものを食べさせてくれた。時には店奥の居間のテーブルにいなりずしやぼた餅が山盛りの大皿。田舎者の山彦にはそれに魅かれていたのかもしれない。今でも目に浮かぶ。
ちなみにコンビニでバイト中の愚息はおかもちを見たことがないらしい。もしやあなたも?