8.山彦日記

吉報である。村人の人口が年々減っている中でこの秋朗報が入った。この田舎に若夫婦が引っ越してくるらしい。しかも生後3ヶ月生まれたばかりの赤ちゃんを連れての入村である。いやあ、まったくめでたい事だ。
世帯が増えたのは山彦が小学生の頃1軒あった記憶がある。でもその家も1年ばかりで引っ越していってしまった。もう数十年前の事である。その後、村に嫁が来たり、婿が来たり、出て行ってしまったりで人生いろいろである。その上だれも一年たてば1才年を取り、10年たてば10才老いる。あの日野原先生もとうとう旅立っていったように元気に農作業をしていたおじさんやおばさん達も一人また一人と顔を見られなくなっている。人口減少かつ高齢化にまっしぐらである。
そんな田舎ではあるが「田舎は住みやすい良いところ」だと自信をもって勧めたい。何より村人が概して素朴である。特におばあちゃんたちは外に出る人が少なく人恋しいのであろうか、とてもねんごろである。それでいて積極的に前に出ることはしない。山彦思うに彼女たちが育った時代は女性の権利が低く、人の後ろにいることに落ち着きを感じるのだろうか。規律を重んじ、若夫婦にとってありがたいことに村人は子供が大好きで自分の家の子はもちろん他家の子も同じようにかわいがる。山彦も愚息の幼い頃「子供は地域で育てる」この言葉にどれだけ救われたことか。
そしてもう一つお勧めをあげると豊かな自然のおかげで毎日が風流である。風や川の音,虫や鳥の発する声に四季の移り変わりを感じることができる。少し前には「ガチャガチャ、リーンリーン」とうるさいくらいだった秋の夜虫もしだいに小さく心細げな音色に変わっている。もう1ヶ月すれば鳴く虫もいなくなるであろう。夜は木々をざわざわとゆらす風の季節になる。静かな夜、時折裏の畑の落ち葉を踏む音が聞こえる。懐中電灯を照らすと目にもとまらぬ速さで何かが逃げていく。誰か言っていた。田舎は小さな動物園。風流もスリルもあって楽しいよ!