08.山彦日記  6月1日

6月「水無月」 田舎暮らしの山彦の連想は「梅雨」「田植え」「かえるの声」と続く。
今年は寒さが長引き、桜が遅かった。かえるの初鳴きも 遅く、山彦の池では4月18日だった。
例年は10日以前である。

耳をそばだてなくては聞こえなかった かえるの声も6月になるとにぎやかである。そして田舎は 田植えの真っ盛りである。かつて田植えは大仕事であった。家族総出で行い、山彦も小さなころから手伝ったものだ。

田植え前の田んぼはどろどろ,たぽたぽ,ぬるぬるして最初の1歩は勇気がいる。さらに歩き始めは泥に足をとられ、うまく歩けないのだ。だんだん足がなじんでくると、ねっとりとした泥の感触がやさしく感じられてきたのを思い出す。

この時期から田舎はかえるをはじめ、昆虫や小さな生き物が増えてくる。山彦の家にも いろいろな生き物が訪れる。網戸にホタルがとまり、けなげに光っているいるのを見ると、田舎暮らしもすてたものではないなと思うのである。もちろん「キャー」と叫んでしまうでっかいクモや目障りな虫もたくさん来るし、それを追ってか かえるまで家の中に入ってくる。

それらをハイハイご苦労様と家の外へ追いやる。

感心するのが「沢ガニ」である。黒味を帯びた朱色の小さな沢ガニが雨の日などに家の三和土のすみに時折うずくまっているのだ。沢から山彦宅まで近いには近いけど「この体でよくここまで 来たねえ」とほめてあげる。でもね「残念ながら沢ガニよ。山彦の家には君の好きなエサはないし、 お友達もいないんだよ。さあ沢へ帰ろう」

山彦は沢のへりに沢ガニを這わせ そしてつぶやく「よくがんばったね。君は最高のカニだよ。 ここですてきな家庭をつくってね」