08.山彦日記  1月1日

山彦は田舎に住んでいる。行政の用語で「中山間地」といわれ、平地から山間地にかけての傾斜地が多い地域である。家からの視界はほぼ山、または田んぼや畑しか見えない。

だからであろうか「海」にあこがれに近いものがある。防風林(ほとんどが松)を抜けると防波堤、それを乗り越えると視界がわっと広がる。潮の香り、規則正しく寄せては返す波の音。

浜に下りれば、足元は砂利だったり砂だったりととにかく歩きにくいが、なんとか波打ち際まで行く。深呼吸して広い海を改めて見る。山彦の身近な海は駿河湾で、左手には日本平その先には伊豆半島がうっすら横たわり、右手には御前崎がせりだしている。天気がよければもちろん富士山も拝むことができる。

浜は風が強かったり紫外線が気になったりしてあまり長居することはないが、山彦がリラックスできる場所のひとつである。

子供のころは海を見るのは 裏山を20分ほど登ると見える「かすんだ海」でどこまでが海でどこからが空なのかよくわからない「海」だった。夏の海水浴は年に1回かな?電車に乗っていてたまたま海が見えると「ラッキー」と思う。

高校は海に近い学校に通ったので、部活動を卒業すると同級生と自転車で用もないのに海へ出かけた。かつての青春ドラマのように海にむかって「バカヤロー」と叫んだりもした。今思えば赤面ものである。

ある時友人海彦と浜でぶらぶらしているとちょっと先の浜辺できらきらぴちぴちしているものが見えた。海彦は「ラッキー」といって走り出した。

「きらきらぴちぴち」の正体はなんとみごとな太刀魚で打ち上げられたばかりであった。山彦にとって始めてのことでびっくりしていると海彦は当然のように捕まえて、山彦の土産にしてくれた。家で母が煮魚にしてくれて皆で味わった。もちろんおいしいかった。

山彦にとって「海」は「ラッキー」なのだ。