05.発酵と腐敗はどこが違う?

今回は面白い文献がありましたので、それをご紹介しますね。

さて微生物と食品との係わりでいえば、腐敗と醗酵(最近は「発酵」とも書くが本来は当て字)が挙げられる。おそらくどちらの言葉も聞いた事のある言葉であろう。

まず腐敗であるが、腐ることである。冷蔵庫に入れ忘れた食材が次の日に変な匂いを発していた時、我々は「腐ってる」という。室温に置いておいた食品の中で微生物が繁殖して変敗してしまったのである。

一方、酒や味噌・醤油といった食品を醗酵食品といい、その過程を醗酵と呼ぶ。醗酵も微生物を利用して米を始めとする穀類や、ブドウなどの果実から酒を作ったり、米や麦、豆から味噌や醤油を作るものである。

なお醸造という言葉もあるが、醸造と醗酵との厳密な違いは筆者も良く知らない。敢ていえば、醗酵とは酒や味噌・醤油の他に調味料、アミノ酸などを作るために様々な微生物を利用する方法の総称であるのに対し、醸造とは昔ながらの味噌・醤油あるいは酒などを作ることに限定している概念の様に思える。

さて、腐敗と醗酵とはどこが違うのか。腐敗にしても醗酵にしても微生物の餌になる栄養分を摂取し、その結果として微生物に不要なものが排泄する生命作用(代謝という)に他ならない。

そして微生物によって作り出されるものが人間にとって不要であったり有害であった場合にこれを腐敗と呼び、人間にとって有用な物質が作り出される(正しくは人間が微生物に作り出させている)時に、醗酵と呼んでいるに過ぎない。微生物側にしてみれば、どちらも同じ事をしているのである。

「それでは腐敗と醗酵は微生物が違うんですね。」とは思わないでほしい。同じ微生物の同じ作用でも醗酵と呼ぶ時もあれば、腐敗と呼ぶ時もあるのである。分かりやすい様に具体例で説明しよう。

パスツールの話で述べたが、ワインに乳酸菌が増床すればこれは腐敗であるが、牛乳に作用させてヨーグルトを作る場合には醗酵である。同じ様に酒に酢酸菌が生えて酸っぱくなったら腐敗であるが、酢を作るために酒に酢酸菌を生やせば、醗酵である。同じものが同じ様になっても、人間の都合によって腐敗にもなれば醗酵にもなる。

別の例でいえば、チーズに青かびを生やせば高級なロックフォールチーズになる。もしロックフォールチーズに青かびが生えていなければ、クレームものである。だが、チェダーチーズに青かびが生えてしまったら、誰も青かびチーズとはいわず、変敗であるとクレームを付けるだろう。

要するに人間が意図して微生物を制御して何かを作らせているのが醗酵であり、意図しないものができた時を腐敗と呼んでいるに過ぎない。

食品衛生工学 佐田 守弘氏より抜粋