01.お勧めの1冊

火車
宮部みゆき  新潮文庫
本書の背景の約30年前の状況は「過払い金は取戻せます」と弁護士法人が盛んにCMを流す現在と違い、サラ金地獄に対する救済措置は貧弱で、利用者側も無知でした。

休職中の刑事本間は遠縁の青年栗阪に失踪した婚約者関根祥子を捜してくれと依頼されます。捜索開始後間もなく関根祥子は本人ではなく、本人に成済ました別人だと分かります。

「偽祥子」はなぜ他人の身分を乗っ取らねばならなかったのか。彼女がまた本人の身分だった頃、借金地獄の末行方不明の父の所在確認で「死んでいてくれ、どうか死んでいてくれ、お父さん」と念じながら身元不明の死亡者を掲載する官報を捲る姿に鳥肌が立ちます。

祥子の身分を手に入れた後、婚約指輪にサファイアを贈ろうとする栗阪に真の自分の誕生石エメラルドをねだる理由を言えない姿に、過去を消した女の悲しみを感じます。著者はそんな彼女に決して一人称で語らせず、あくまで本間の調査により過去が暴かれていくのです。