08.山彦日記  8月 美しい光景

子供たちにとって8月は夏休みで、このうえもなく楽しい月だと思う。大人も旧暦のお盆に数日の休暇があるのが一般的で8月の声を聞くだけでうかれてしまうのは山彦だけではないだろう。しかし去年の夏の光景を思い出すと切ない気持ちがこみ上げる。

お盆は7月に行う地域もあるが、山彦の地域は8月である。お盆の日にちも土地柄があるように、お盆の行事もいろいろある。そのひとつ「迎え火」は8月13日の夜に火をたき、先祖の霊をお迎えする行事で、山彦のまわりは 初盆の家では特別に8月1日から迎え火をたく習慣がある。もっとも最近は住まいの関係かだんだん少なくなってきたが…

そんな中、ある田舎道でおじいさんが大きな迎え火をたいていた。家の前でははばかられるのであろうか周りに家はない。
山彦の妄想が広がる…

きっとあの老人のつれそいはその年のいつかに死んでしまったのだろう。そのおばあさんとおじいさんは仲が良く いつもお互いを頼りにしていたに違いない。おばあさんを亡くしても、おじいさんは生きていく。悲しい思いをかかえながらも 生きていく。
そして初盆を迎える8月。おじいさんは死んでしまったおばあさんに会いたい一心で迎え火をともす。迎え火にしては大きい炎におじいさんの気持ちの強さがあふれている。

その晩から何度もあの道を通る。決まったように迎え火をともし、深いしわがきざまれた顔を炎に照らされ、しゃがんでいるおじいさん。偲んでいるのだろうおばあさんを。

そして8月15日は「送り火」が行われる日。あのおじいさんは今日も火を焚くのであろうか。せっかく迎えたおばあさんの霊を送るための火を…

山彦は涙します。ぼんやり炎を見つめている見ず知らず老人に、そしてお二人の愛に。