08.山彦日記

雨が続く。しだいに風も出てきたようだ。山彦は田舎に住んでいる。
濡れた緑の木々を眺めながら縁側の椅子に座り、妄想にふける。いまこの時裏山の動物たちはどうしているかなあ、と。
カエルやサワガニたちは雨大歓迎派であろう。自分たちの行動範囲が広がって大いばりでなわばりを増やしているに違いない。ケ~ロケロとすぐそこでも鳴いている。でも君たち、あまり遠出しすぎて雨が上がった後あわてないようにしてくれよ。池と思ったら水たまりだったなんてこと、君たちの死活問題だからね。サワガニはあの小さいからだで、沢から2メートルほどの段差を乗り越えなぜか我が家までやってくる。歩みは細かいがモソモソかさこそと動きは早い。さすが足が八本あるだけのことはある。
「ここには君のお友達もいないし、君の好物だってないと思うよ」と言いつつ、山彦はカニを沢へ戻すのである。雨の中枝をかき分け沢へ降りるのは望むところではないが、乾ききったカニを見ることのほうがずっと切ない。
憎きイノシシやサルはどうしているかなあ。イノシシの実態は定かではないけれど、雨の日でも竹やぶや茂みをなぎ倒しながら泥まみれで土を掘り返している姿が目に浮かぶ。昼でも夜でも晴れていても雨が降ろうが、雨をはじかんばかりの剛毛は怖いものなし。この時期はウリ坊と称される子供イノシシを伴ってぶひぶひ鳴いて歩き回っているような気がする。
さてサルはどうだ。今年はサルとの距離が近かった。冬から春にかけて野鳥のためにみかんを枝に刺しておくのだが、その食べカスに奇妙な形跡があった。先日その疑問が解けた。隣家の夏ミカンの木てっぺんで野サルが皮を剥きむき食べていたのだ。やつらは数頭で群がっている。
多勢に無勢で引き下がってしまった山彦。思い出しても悔しいけれど、こんな雨の日は屋根のある家に住まうことのありがたさを思うと優しい気持ちになれる。雨の日も乙なものである。