スーパーや百貨店で鰹節を選んでいると製品の袋や製品ラベルの原料欄に「本枯れ節」や「かつおかれぶし削りぶし」と書かれているものを見たことがありませんか。
鰹節の削りを買おうと思い、実際に鰹削りを手に取ったのに本枯れ節やかつおかれぶし削りぶしと書かれていると「鰹節と何が違うの?」と感じてしまいますよね。
和食が2013年にユネスコ無形文化遺産として認められ、和食(日本食)が世界中の人々から注目されるようになり、和食の基本となる「だし」という言葉も注目され始めました。日本の「だし」という言葉を聞いて、多くの人がイメージするのは鰹節。和食(日本食)の繊細な味付けは、だしの原料となる鰹節の風味や味を活かした料理がベースとなっています。
そして「本枯れ節」といわれる鰹節は、鰹節の中でも高級品と位置付けられています。
ここでは、元板前で何年もだしを取ってきた私が、本枯れ節と鰹荒本節の違いと美味しいだしを取るための方法をお話させて頂きます。
目次
1.本枯れ節とは
本枯れ節とは鰹節の表面にカビのある鰹節のことです。
本枯れ節または、枯節と呼ぶことがありますが、これは鰹節が枯れている(水分が少ない)との意味合いがあるようです。
鰹節の表面にカビが生えてるからと言って傷んでいるわけではなく、人工的に優良なカビを発生させているのです。本枯れ節の製造には3ヶ月~6ヶ月程度掛かるので手間はどうしても掛かるのですが、その分、熟成され鰹節の最高級品として位置づけられています。
1-1 本枯れ節の外観
鰹節には荒本節と呼ばれる表面が黒っぽい鰹節と本枯れ節の様に表面にカビを付けた薄茶色の鰹節があります。
鰹節の状態ですと本枯れ節と荒本節は見た目の違いがわかりやすいです。
本枯れ節・枯節の形状は荒本節と比べ、表面のゴツゴツ感は少ないです。節の状態ですと色の違いで見分けが付きやすいのですが、削り節となった状態ですと本枯れ節と荒本節はともにピンク色の削りぶしとなるため、削り節での見分けは付きにくくなります。
スーパーや百貨店で削り節を購入する場合、本枯れ節と荒本節の識別はラベル表示を確認すると間違いがありません。本枯れ節の削り節には「かつおのかれぶし」や「かつおかれぶし削り節」と記載されています。荒本節を使用した削り節には「かつおのふし」と書かれていますので、購入時に確認してみてください。
1-2 本枯れ節のカビの意味
本枯れ節と呼ばれる鰹節の表面になぜカビを付けるのかと言うと、答えはカビを付けない鰹節より更に美味しくなると言う事です。
どうして美味しく感じるのかというと生の鰹からカビを付ける前の鰹節(荒本節)を製造するのに30日程度掛かるのに対し、枯れ節はカビを付ける工程がある為、約90日間(3ヶ月程ですが商品によって6ヶ月程度かかる物もあります)も掛かかり、熟成の期間が長くなる事で旨味が増します。
このカビ付け作業の中で鰹節の表面以外にも変化が起こっています。
カビを人工的に付けていく際にこのカビが栄養分としているのは、鰹節内の微量な水分です。この水分が鰹節内から抜けていくときに乾燥が進み、水分が抜けた鰹節の旨味(イノシン酸やアミノ酸)が凝縮されていく一方、鰹節の脂肪分は分解されていき上品でまろやかな風味が出てくるのです。
1-3 本枯れ節の製造方法
まず、本枯れ節の前段階である荒本節の製造工程は、
①生の鰹を切る(生切り)
まず鰹節の頭・内臓を取り除いた後に専用の包丁を使い背中側から半身におろしていきます。
背中から包丁を入れる際に背骨に沿って包丁を滑らせていくのですが、背骨から包丁がそれてしまうと背骨に鰹の身が付いてしまい鰹節として完成した時に形が悪くなってしまいます。
このあと3枚におろした後、最後に尻尾を切り取って、生切りが完了します。
②煮る(煮熟・・・しゃじゅく)
生切り後の鰹を煮る事を煮蒸といいます。
煮蒸は大きな釜で煮ていくのですが、この時の湯温は98℃程度で90分~120分ほど煮ていきます。
98℃以上になってしまうとお湯が沸騰してしまい、鰹が身崩れしてしまう事と鰹のだしがお湯に溶け出てしまいます。鰹の大きさやゆで釜の大きさにより、煮蒸時間を調整していきます。
③骨を取る
煮蒸が終わった後、鰹の骨を取ります。
生切りの時に切り落とされた腹骨(7本骨と呼ばれます)を中心に取り除いていくのですが、中骨付近の小さな骨も一緒に取り除きます。この骨取りを丁寧に行わないと次工程の乾燥時(焙乾)に残った骨の影響で鰹が曲がってしまいます。
④乾燥させる(焙乾・・・ばいかん)
焙乾とは鰹節を燻製させながら乾燥させていく工程の事です。
焙乾の目的は、水分を低くして、鰹の旨味を凝縮させる事と、鰹の水分を低くして腐りにくくします。焙乾による薪の煙に含まれる有機化合物は、外部から雑菌が入らないように表面コーティングの様な働きもしています。この焙乾の工程により鰹節は保存食と呼ばれる程、長期保存が可能な食品になります。
また、薫臭を付ける事により、魚の臭みを消す効果もあります。
この工程を完了すると荒本節となるのですが、このすべての工程を終了するまでに30日程度掛かります。
30日程度掛けてできあがった荒本節は、その後、カビ付け工程に入ります。

⑤修繕
骨取り作業などで表面が損傷した荒本節は、形を整えるために丁寧に修繕をおこないます。この作業は損傷した部分が広がらない目的と本枯れ節が完成した時の形が良くなるためにおこないます。
鰹節の製造時に出た“なかおち”(鰹節の骨などに残った細かな身)を集め下茹でした後、ミンチにして修繕箇所にすり込んでいきます。
修繕した荒本節は、もう一度焙乾をおこないます。
⑥カビ付け
鰹節の表面に鰹節菌(麹菌の一種)を人工的に吹き付けていきます。
その後、カビ付け庫と呼ばれる湿度90%前後の高湿度の倉庫に2週間ほど寝かせ、天気の良い日に天日干しをおこないます。このカビ付け庫・天日干しの工程を3回以上繰り返すと本枯れ節・枯節と呼ばれます。このカビ付け工程は2ヶ月以上も掛かるため、荒本節の製造工程と合計すると生の鰹の処理開始から3ヶ月以上も掛かっている事となります。
時間と手間が掛かっている分、本枯れ節の旨味は熟成されていくのです。
2. 本枯れ節のだしの取り方
本枯れ節・枯節でだしをとってみましょう。
本枯れ節・枯節の削りには主に“薄削り”と“厚削り”の2種類がありますので、両方のだしの取り方と荒本節のだしとの違いについてお話しします。
2-1 本枯れ節のだし取りで準備するもの
まずは、だしをとるための調理器具を準備して下さい
- 水が2リットル程度入る鍋
- ザル(口径が15cm~20cm程度のもの)
- キッチンペーパーか布巾
- 取っただしを受けるボウルか鍋
ご家庭にある調理器具で代用可能です。
次に使用する本枯れ薄削り量ですが、目分量は【水1000ccに対し、本枯れ節薄削り40グラム】です。
この量でだし取りをすると、800cc程度のだしが取れます。お味噌汁にすると6杯程度のだしが取れる事になります。
本枯れ節薄削り美味しさは、香りとだしの旨味です。
せっかく取っただしの味が薄くては、料理のおいしさも半減してしまいますので、この目分量を目安にだし取りをおこなってください。
百貨店やスーパーで販売されている「本枯れ節薄削り」は、1袋80グラムが主流になってきています。だしを取るときに容量の半分を使用することで、1000cc当たりの目安としても使用できます。
2-1-1 本枯れ節“薄削り”のだしの取り方
早速、本枯れ節薄削りでだしを取ってみましょう。
①鍋に1000ccの水を入れ、沸騰させる。
沸騰具合は、気泡がグラグラ沸いているイメージではなく、気泡がポコポコ沸いている状態です。
温度を測る必要はありませんが、鍋底から出る気泡の出方に注意してください。
②本枯れ節薄削り40グラムを準備
③沸騰したら火を止めて、直ぐに花かつおを鍋に入れる
どうして火を止めるかというと本枯れ節薄削りで取るだしは、削り自体の厚みが薄く、直ぐにだしが出やすい削り節です。そして、本枯れ節薄削りでとっただしの特徴は香りが良いこと。
この香りを弱めてしまうのは、加熱時の“熱”です。
だしの抽出時にお湯を沸騰状態に保ったままでいますと、だし自体は抽出されるのですが、本枯れ節薄削りの特徴である香りは、どんどん弱まってしまうのです。
④鍋を動かしたり、かき回したりせずに10分待つ。
本枯れ薄削りからしっかりだしを抽出したいと考え、鍋に入れた薄削りを混ぜたり、押したりしたくなってしまいますが、そのまま触らないで置いておくことが重要です。
混ぜたり・押したりしてしまうと鰹節の苦みやエグミがだしに移ってしまいます。
鍋に入った本枯れ薄削りは、そのまま置いておいても十分に味と香りが良いだしが取れます。
⑤ザルにガーゼを敷き、だしを濾す。
ここで注意することは、2つあります。
1つ目は、ガーゼをしっかり敷くこと。
ガーゼは本枯れ節薄削りのだしガラが、だしの中に残さないために使うものです。
だしガラがだしの中に残ってしまいますと、だしの風味を損ねてしまいますので、ゆっくりとだしを濾すことが必要です。
2つ目は、だしを濾す際に本枯れ節薄削りのだしガラを絞ってはいけない事です。
だしを取った後のだしガラには鍋のなかの水分(だし)が含まれているので、最後の一滴まで絞って使いたいと考えてしまいますが、だしガラを絞ると④と同様に鰹節の苦みやエグミが出てしまったり、琥珀色に取れただしの色を濁らせてしまいます。せっかく取れた美味しいだしの中に入ってしまっては、その後の料理の味を落としてしまう事になります。
ここでは勿体ないという気持ちを捨てて、コーヒーのドリップ同様にそのまま置いておくことが重要です。
また、料理に使った後にだしが残ってしまった場合は、冷ましただしを製氷皿に入れ“だし氷”として冷凍保管しておくことをお勧めします。
2-1-2 本枯れ節“厚削り”のだしの取り方
本枯れ節厚削りのだしとりで使用する調理器具も薄削りと同じものでかまいません。
①鍋に1000ccの水を入れ、沸騰させる。
本枯れ節“薄削り”と同様です。
②本枯れ節厚削り40グラムを準備
③沸騰したら弱火にして本枯れ節厚削りを鍋に入れる
沸騰したら火を弱火にして小さな水の泡がプクプクしている状態をキープします。アクが出たら取り除きます。
この煮だしの時間でだしの味と風味が変わります。目安は15分~20分間です。この時、注意するポイントは長く煮出すほど風味が弱くなり、水分が蒸発してだしの量が少なくなるということです。では、煮だし中にふたをすれば蒸発量を抑えられると思いがちですが、これはお勧めできません。
だし取り全般に言えることですが、ふたをしないことで魚特有の雑味や生臭さを飛ばしているからです。ふたをして香りと湯気を閉じ込めてしまうと、鍋の中に魚の雑味や生臭さが残ってしまいます。
④鍋を動かしたり、かき回したりせずに5~10分待つ。
火を止め、鍋の中が何も動いていない状態でしばらく待ちます。この時間にもじわじわとうまみが流れています。本枯れ節薄削りの④同様、かき混ぜたりはしません。
⑤だしを濾す
だしを濾す時は菜箸を使い、初めに厚削りのだしガラを“ゆっくりと”取る事をお勧めします。その後、だし受け用の鍋やボウルに少しずつだしを移してください。
あまり鍋の中のだしをかきまぜたくない場合は、だしガラが入ったまま濾しても大丈夫です。
細かなだしガラも取ってしまいたい場合は、キッチンペーパーか布巾を敷いて、ゆっくりとだしを濾してください。
2-3 本枯れ節と鰹節のだしの違い
本枯れ節でとっただしと荒本節でとっただしを比較してみますと、
- 本枯れ節:上品さが感じられるだし
- 荒本節:鰹節特有のパンチが効いただし
と言えるかもしれません。
まずだしを取ってみるとその一面が感じられます。本枯れ節でとっただしの色は薄い金色をしており、荒本節に比べ薄いと感じるかもしれません。また香りも荒本節の特有のツンとした香りを感じなくなり、鰹節の香り自体が柔らかくなったと感じられます。
味は、荒本節の様にパンチが効いただしではなく、比較的やわらかで旨味が感じられる味になります。この旨味も口に残りやすいのが特徴です。この旨味を感じられるのがカビ付けをした本枯れ節の特徴です。本枯れ節のだしはスッキリした上品さが感じられるのです。
本枯れ節は香りも良く、旨味も感じる事が出来るので、料亭などでは椀物として使用されることが多いです。もちろん他の料理にも使用できるのですが、香りを楽しめる料理に使うと良いかもしれません。
一方、荒本節のだしは鰹節特有のパンチが効いただしがとれますので、鍋物や麺つゆなどで使用すると美味しさが引き立ちます。

3.まとめ
今回、本枯れ節の特徴とだしの取り方についてお話しさせて頂きました。
本枯れ節は製造工程に時間と手間がかかる分、鰹節が熟成され更に美味しくなるのですが、その分荒本節に比べ価格も高価になってしまいます。
しかし、美味しいお料理には美味しいだしは欠かせませんので、荒本節と本枯れ節どちらにしようか迷ったら本枯れ節をお勧めします。
美味しいお料理で大事な人やご家族が笑顔になれますように。
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