新年にはお雑煮を食べ、一年の始まりを実感する方は多いのではないでしょうか。日本では昔から、旧年の農作物の収穫が無事であったことに感謝し、新年の豊作や家内の安全を祈ってきました。 そんなお雑煮ですが、地域によってつゆや具材、餅の形まで異なることをご存知でしたか?
本記事ではお雑煮のパーツごとの特徴をあげていき、その特徴は主にどの地域で見られるのかをご紹介していきます。
1.つゆの種類
お雑煮の汁を大きく分けると、東日本では醤油ベースのすまし汁、西日本では味噌ベースの汁というのが一般的です。
関西地区では、お雑煮発祥の地・京都の食文化の影響を受け、白味噌を使う風習が広がったといわれています。関西の一部地域では赤味噌を使うこともあるようです。
一方関東地区では、武家文化の影響で、醤油ベースに変化したといわれています。なぜなら、味噌は武家文化で失敗を意味する「ミソをつける」という言葉を連想させるとして避けられたからです。西日本でも関西から離れるほど、味噌ベースではないお雑煮が見られます。
西日本にも「みそ」でも「すまし」でもないという特色ある雑煮があります。それは日本海に面する島根県、鳥取県などの地方で食べられる「あずき」が汁のベースのお雑煮です。小豆が粒のまま使われ、餅が入ることで「ぜんざい」のような見た目ですが、味は意外にもあっさりしているようです。
2.出汁の種類
図1. 出汁の種類
図1を見ると、お雑煮に用いられる出汁はかつおだしや昆布だしがベースの地域が多いようです。
上記以外にも、各地域の特産品を出汁として用いる場合もあります。
くじら(青森)、焼きはぜ(宮城)、煮干(岩手)、ハタハタ(秋田)、干し貝柱(福島)、焼きアナゴ(兵庫)、いりこ(香川)、スルメ(福岡)、焼き海老(鹿児島)などが例に挙げられます。
なお、沖縄県にはお雑煮を食べる習慣がなく、豚のモツを煮込んだ「中味汁」をお正月に食べるのが一般的です。
各地域が使うだしは具材と同様に多種多様です。各家庭においても、両親の出身地が違うと2種類用意することもあるかもしれません。南北に長い日本列島で古くから形成されてきた豊かな食文化といえるのではないでしょうか。
3.餅の種類
3-1.形状
日本の東側と西側で形が異なり、その境目は岐阜県の関ケ原辺り(図2を参照)になります。関ケ原より東側では角餅、西側は丸餅が一般的です。ちょうど境界線上にある、岐阜、石川、福井、三重、和歌山の5県では、角・丸2種類とも使われているところもあるようです。
図2
日本の餅は、もともと丸い形をしていました。角餅の由来は諸説ありますが、江戸時代に、平たく伸ばした餅を切り分ける方法が生み出され、これが角餅となりました。角餅は運搬に便利なことから、江戸から徐々に広まっていったとされています。
例外として、東側でも北前船が運んだ京都文化の影響が強い山形県庄内地方と、つきたての餅を年間60日以上食べる習慣のある岩手県一関市は、丸餅が主流です。
3-2.加熱の方法
東日本で主流の角餅は焼いて食べられ、西日本で主流の丸餅は煮て食べられることがほとんどです。
ただし中部地方では「角餅を煮る」地域も多いようです。理由は諸説ありますが、白い角餅は「城」を連想させるため、「城を焼くのは縁起が悪い」とされたといわれています。九州や四国でも「丸餅を焼く」地域が存在し、お餅の加熱方法はその地域によって様々といえます。
4.具材の種類
4-1.一般的な具材
地域によって違いが大きく見られますが、大根やにんじん、鶏肉、かまぼこを入れる地域が多く、少数派では豆腐、ねぎ、白菜、ちくわなどをいれるところもあります。
4-2.地域ならではの具材
地域ならではの食材として、くじら(青森)や鮭といくら(新潟)、はば海苔(千葉)、ぶり(福岡)やカキ(広島)などの海鮮類や、根つきねぎ(富山)、金時人参(京都)、豆もやし(宮崎)など土地によって様々な個性が現れています。
4-3.個性的なお雑煮3選
筆者が気になった個性的なお雑煮を3種類紹介します。
■くるみ雑煮(岩手県宮古市周辺)
「くるみ雑煮」は三陸沿岸の宮古地方で元日の朝に食べられる代表的なお雑煮です。
大根、にんじん、ごぼう、鮭、凍り豆腐などを入れたしょうゆ味のだし汁にもちを焼いたものを入れ、もちを食べる時はそのまま汁椀から食べたり、別の器に入れた「くるみだれ」をからめて食べたりして、2種類の味を楽しむのが特徴です。
出典:岩手農林水産部農業普及技術課
■きなこ雑煮(奈良県)
奈良では豆腐、祝だいこん、金時人参、里芋、丸餅などが入った白味噌仕立ての雑煮で、雑煮の餅を取り出して、砂糖入りのきな粉につけて食べる地域が多いです。奈良県では雑煮に入れるために、直径3cm程度の細い大根が、「祝だいこん」として年末に販売されます。
出典 : NPO法人奈良の食文化研究会
■納豆雑煮(熊本県の山鹿市周辺)
納豆雑煮は、昆布やするめいかの出汁を効かせた醤油ベースの汁に、丸餅、人参、椎茸、里芋などが入っています。
特徴的なのが、砂糖を混ぜ合わせた納豆をお餅と絡めて食べること。納豆に砂糖を絡めることで、納豆の臭みが和らぐため、納豆が苦手な方も食べやすく感じるようです。
出典:山鹿探訪ナビ
使われる具材の中には「縁起のよさ」を考慮している物もあり、お雑煮は日本独自の食文化として成り立っていることを感じられます。個性的なお雑煮も多々見られるため、気になる人は作ってみてはいかがですか。
5.まとめ
古くから日本の食文化として多くの人に親しまれてきたお雑煮。
つゆ、餅、出汁、具材それぞれに様々な種類があり、地域ごとに特色がみられます。
日本食離れが進む昨今ですが、地域それぞれで独自に発達してきたお雑煮の食文化は
いつまでも守っていきたいものですね。
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