「この鰹節はカビが付いている高級品よ。」「えっ、カビが付いていると高級品?カビなんか付いてたら困るよ。」「鰹節に付いているカビの種類は何なのだ?」なんて思ったことはありませんか。
実は鰹節に付いているカビは優良カビで体に害はありません。それどころか、カビを付けることによって様々な効果があるのです。
鰹節に付いているカビの種類から、付けることによる効果、付ける工程をお伝えしますので、ぜひお読みください。
目次
1. 優良カビ ユーロティウム
鰹節に付けているカビの種類はユーロティウム(和名:カワキコウジカビ、あるいはカツオブシコウジカビ)というカビ毒を産生しない優良カビです。
カビは自然発生するものなのに、なんで限定できるんだという疑問が出ると思いますが、その理由は以下の通りです。
現在は鰹節会社が製造工程の中のカビ付けの段階で、焼津鰹節組合が純粋培養しているユーロティウムのカビ菌を噴霧しているからです。
こうして意図的に優良カビを付けて、悪性カビの発生の余地をなくしているのです。
焼津鰹節組合から購入して、鰹節に噴霧するカビ菌の写真です。
冷蔵庫の野菜室に保管しています。
1-1 麹カビの一種
カビの付いた鰹節です。
ユーロティウムは麹カビの一種です。
カビは大きくは黒カビ、青カビ、麹カビ、すすカビに分けられます。麹カビ以外では、特に黒カビに代表されるお風呂場で発見するようないわゆる悪いカビの印象ですが青カビの一種にはカマンベールチーズの製造に使われるカビもあります。
麹カビは、酵素を多量に産生して澱粉やたんぱく質を分解するため、昔から清酒や味噌醤油の醸造に使われてきました。ユーロティウムはその麹カビの一種で、優良カビです。
1-2 麹カビの種類
麹カビに属するユーロティウム以外の代表的な種類について紹介します。
アスペルギルスオリゼー(和名:黄麹菌)
主に味噌、醤油、清酒の製造に利用されます。
アスペルギルスカワチ(和名:白麹菌)
主に焼酎の製造に利用されます。
アスペルギルスルチュエンシス(和名:黒麹菌)
主に泡盛の製造に利用されます。
ルチュエンシスとは琉球という意味があるそうです。泡盛の製造が盛んな沖縄からとったようですね。
いずれも醸造に大切な役割を果たしています。
1-3 繁殖する環境
乾燥した環境を好みます。普通、カビというと湿気の高い環境に繁殖するイメージが強いですが、このカビは(もちろんカビが繁殖する環境の中での比較ですが)乾燥した環境を好むのです。
1-4 カビを付ける効果(目的)
① 保存がきくようになる
カビはまず鰹節の表面にびっしりと繁殖します。そのカビは鰹節の水分を吸い取って生きていきます。表面の水分が吸い取られたら、その後はさらに内部の水分もカビによって吸い取られていきます。こうして鰹節の内部にはほとんど水分がなくなった乾燥状態になります。そのため腐りにくくなり長い期間の保存がきくようになるのです。
② 旨味が増す
カビは水分を吸収しながら繁殖する一方で、さまざまな酵素を生産して鰹節内部に送り込んでいます。その酵素の中にたんぱく質を分解してアミノ酸にするたんぱく質分解酵素(プロテアーゼ)があり、それが作用して旨味の主要成分であるアミノ酸を蓄積させるのです。
③ 油脂が浮かない上品なダシが取れる
これもカビが油脂成分を分解するからです。鰹節の表面で増殖中に油脂分解酵素(リパーゼ)を分泌して油脂成分を脂肪酸とグリセリンに分解し、さらにその分解物を食べてしまうのです。この働きがあるので、カビを付けた鰹節(枯節といいます)を使うと油脂がうかない、すんだダシがとれるのです。
参照
インターネットサイト 株式会社リンクス 食品の二次被害対策相談室
インターネットサイト 麹のこと マルコメ
発酵食品礼賛 小泉武夫著 文春新書
2. カビ付けの工程
2-1 表面を削る
カビを付ける前の鰹節を荒節と言います。荒節の表面には前の工程の燻燻(ばいかん、燻すことです)による煙でタールがついています。このタールがついたままですと、カビが上手に付かない可能性があるので、このタールを取るために表面を削ります。
2-2 カビを噴霧する
冒頭で紹介したカビ菌の容器の裏面です。希釈の目安が掲載されています。
鰹節200kgに対して本品(カビ菌)0.1リットルに水0.9リットルを加えた1リットルの希釈液を用意します。
鰹節1000kgに噴霧するなら、上記の割合で5リットルの希釈液が必要になるわけですね。
鰹節の荒節が入っているコンテナです。
このコンテナに荒節がおよそ12kg入っていますので、このコンテナ10個並べてカビ菌(ユーロティウム)を噴霧する作業をする場合は、120kgに対して必要な量、0.6リットルを用意することになりますね。
コンテナを並べて噴霧器で上から1回、入っている荒節をひっくり返してもう1回噴霧してむらが無いようにするそうです。
2-3 カビ付け庫に入れて待つ
カビ付けをする部屋(カビ付け庫)の写真です。
カビ付け庫は温度と湿度を調節できる機能を持っていて、それをどのくらいにするかは鰹節製造会社によって若干の違いはありますが、私が伺った会社では温度は約28℃、湿度は82~88%に調節するとのことでした。
温度と湿度をチェックするセンサーです。
このカビ付け庫に10~12日くらい放置します。これくらい置くことによりカビが付いてきます。これを1番カビといいます。その後、1度カビ付け庫から出して、天日干しをします。数時間天日干しをしたら、またカビ付け庫に入れて2番カビを待ちます。
2-4 カビ付け庫で寝かすことと干すことを繰り返す
天日干しの風景です。
こうして、カビ付け庫で放置するのと、天日干しを繰り返します。3番カビ、4番カビまでつけるには早くても2か月、長ければ3ヶ月程度を要します。
3. まとめ
鰹節に付いているカビは、私たちが「えっ、カビが生えちゃった。」と思うときの悪いカビではないことが分かっていただけたと思います。体に悪くないだけでなく、カビを付けることによって1-4でお伝えしたような効果が出るのです。
実はカビの付いた鰹節は高級品なのです。ぜひ、安心して食卓の一品に加えてみてください。
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