和食と言えば、味はそんなに濃くなくてもだしが効いていて美味しいという印象を持つ方が多いと思います。和食のだし文化の背景には、675年に天武天皇が発布した「肉食禁止令」があります。明治時代初頭にこの法律が廃止されるまでおよそ1200年間、日本人の肉食は0ではありませんが、海外に比べれば著しく少なくなりました。肉を食べられない物足りなさを少しでも補い、料理を味わい深いものにしようとした工夫が、だしの発達に繋がりました。
例えば西洋料理の代表的な料理、ステーキは肉を焼いて胡椒をかければ充分美味しいので、だしを取る必要がないですよね。もちろん、西洋料理にも中華料理にもだしを取る料理はあります。しかしそれらは豚骨や鶏ガラなど肉そのものから取るので、とても時間がかかります。短時間でだしが取れる昆布だしや鰹節の発明は日本人の知恵と言えますね。
それでは、それらのだしはいつ頃生まれたのでしょうか。この記事ではそれらのだしの記述が見られる最古の文献かが書かれた年代から、各々のだしがいつ頃生まれたのかを紐解いていきます。
最後までお読みいただけると嬉しいです。
1. 和食のだしは椎茸だしや昆布だしが先に、少し遅れて鰹だしが生まれた
昆布や鰹が文献に初めて登場したのは奈良時代です。しかしそれは、昆布や鰹(当時は堅魚と記述)そのものが朝廷に献上された、という内容です。
だしに関した記述がある最古の文献は以下の通りです。
記述のあるだしの種類 | 文献 | 書かれた年代 |
椎茸だし | 典座教訓(てんぞきょうくん) | 1237年 |
昆布だし | 庭訓往来(ていきんおうらい) | 1300年代後半 |
鰹だし | 種子島家譜(たねがしまかふ) | 1513年 |
上記の表から、和食の代表的なだしである鰹だし、昆布だし、椎茸だしがいつ頃生まれたのかを見ていきましょう。
1-1 椎茸だし
椎茸だしは、鎌倉時代(1200年代中盤)に生まれたとかんがえられます。
椎茸だしのことが書かれている最も古い文献は、「典座教訓」です。書いたのは鎌倉時代に曹洞宗を開いた僧の道元です。書かれたのは嘉禎3年(1237年)とされています。道元が中国に渡航した際上陸が許されないで、足止めを食いました。その時に四川省出身の転座(禅寺の料理係の役職名)が来て「この船に椎茸は積んでいないか。」と尋ねたのです。その転座は椎茸が美味しいだしが取れることを知っていたのですね。
鎌倉時代はこのように僧が中国で学んで禅宗とともに料理技術も持ち帰りました。禅僧が修行の一環として作った料理を精進料理と言います。現代でも「精進します。」なんて言いますよね。精進料理は大豆などの植物系の食材で、何とか肉に近い味を出そうとし、だしを取って少しでも味わい深くしたいという努力が感じられる料理です。1237年に書かれたとされる典座教訓の内容が中国でのエピソードなので、椎茸だしが日本に持ち込まれたのはその少し後、1200年代中盤と考えられます。
1-2 昆布だし
昆布だしは、鎌倉時代から室町時代(1300年代前半)に生まれたと考えられます。
昆布だしが使われたことが分かる最古の文献は「庭訓往来」です。書かれたのは、室町時代初期、1300年代後半とされています。だしに適した宇賀産(現在の函館付近)マコンブが京を中心に人気を得ているとの記述があります。「庭訓」は儒学で、「勉強しなさい」という意味で、江戸時代には寺子屋の教科書として広く使われていました。そこには各地の名産品が紹介されていて、その中に宇賀産マコンブも上記のような記述がありました。
「庭訓往来」が書かれた時期が1300年代後半とされているので、すでに人気を得ていたという昆布だしが日本で生まれたのは、それよりも前、1300年代前半と考えられます。
1-3 鰹だし
鰹だしは、室町時代前半(1400年代)に生まれたと考えられます。
「かつほぶし」という文字が初めて見られる文献は「種子島家譜(たねがしまかふ)」です。書かれたのは1513年とされています。種子島家譜は中世以来種子島を領有した種子島氏の系譜集です。種子島は現在の言うと鹿児島県に属しますね。鰹節の生産量全国1位と2位の枕崎市と指宿市を有する鹿児島県で書かれた文献に、初めて鰹節が登場するのは納得感がありますね。種子島家譜が書かれたのが1513年ですから、日本で鰹だしが生まれたのはそれより前、1400年代と考えられます。
鰹だしの誕生が椎茸だしや昆布だしよりも遅れたのは、鰹節を製造する技術が他の2つよりも難しいからです。
いずれにしても1400年代までに、日本の代表的なだし、椎茸だし昆布だし、鰹だしが生まれたことが分かりますね。
江戸時代には鰹と昆布の合わせだしも使われるようになりました。鰹節に含まれるイノシン酸と昆布のグルタミン酸が合わさると旨みが何倍にも増すうま味相乗効果を科学的に知らなくても、体験的に美味しさが増すことを知ったのですね。
このころには、現代に近いだしの取り方が出来上がりました。
参照
インターネットサイト 機関紙『水の文化』33号 だしの真髄
鰹節 上巻 宮下章著 社団法人日本鰹節協会発行 図書印刷株式会社
2. まとめ
最後までお読みいただきありがとうござました。
和食のだしのルーツをお伝え出来たと思います。だし文化は日本人にとって誇れる文化だと思います。これからもこの文化をまもり、発展させていきたいですね。
美味しい鰹だしの取り方はこちらをご覧ください。
元料理人がこっそり教える!削り節のおいしいだしの取り方 (kobayashi-foods.co.jp)
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【実用版】時短・簡単・美味しい「昆布だし」取り方及びその活用法 (kobayashi-foods.co.jp)
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