鰹節の中でも「本節」と呼ばれている鰹節。
「本節」は、実は世界で一番堅いといわれている食べ物なのです。水分があまりにも少ないので、落としてしまうと割れてしまうほどです。
また世界一堅いといわれる堅さだからこそ、いざ使用してみますと、「家ではなかなか削れない」という声も頂戴します。この堅い鰹節。どうやって上手に削るのでしょうか?
また購入する時にはどのような個所に気を付ければよいのでしょうか?分かり易く解説してみましたので、読んでみてください。
目次
1 本節とは
そもそも本節とは何でしょうか。
「本節」と書いて「ほんぶし」と呼び、鰹節の中でも熟練された技術を持つ鰹節職人が半年間もの間、手間暇をかけて作り上げた最高級の物で、鰹節を削った削り節としてではなく、節として「姿売り」という直接販売している物を指します。
1-1. 本節とは選び抜かれた鰹節
本節は選び抜かれた鰹節です。日本では「本節」が作れる職人が10人も居ないと言われており、現在は一番若い職人でも40代半ばぐらいです。
鰹節全体では年間3万トンぐらい製造されるのですが、職人が少ないばかりでなく、毎日作るわけではありませんので、1000本に1本、10000本に1本と言われているほど、大変貴重な物です。
これからは更に職人が少なくなると言われており、更に貴重な物になっていくに違いありません。

1-1-1 選び抜かれた鰹
本節になる鰹節はどんな鰹からでもできるわけではありません。
一般的鰹節に使用される鰹は、小さい物ですと1匹が500g程度、大きい物ですと6kgの物があります。またその中でもやせ細ったものもあれば、丸みを帯びた脂の乗ったものもあります。
その中でも本節に使用される鰹は、概ね生まれてから3年ぐらいで、体長が60センチ程度の程よく丸みを帯びたものが選び抜かれて使用されるのです。

1-1-2 職人の技術
本節を作る職人は10年、20年と携わっても「まだまだ修行」というほど、本節を作るという技術は高度なものです。
本節は生の鰹から頭と内臓を取りのぞき、煮た後に焙燻(ばいかん)と呼ばれる燻す工程を1か月ほどかけて12~15回行い、荒節とよばれる鰹節が完成します。
これを削った物が花かつおと呼ばれ一般的には流通しているのですが、本節はこの荒節の中で更に選別された物に優良カビを付けて寝かす作業を数回繰り返し行い、最終的に出来上がるのに4~5ヶ月ぐらいかかります。
生の鰹から本節に向く鰹を選び抜く目利き、綺麗に包丁で卸す事が出来る技術、形を整える修繕と呼ばれる技術、上手に満遍なく良質なカビをつける技術など、それぞれ身に着ける技術が非常に多い為、一朝一夕に修得できる訳ではなく、結果的に10年20年と「本節」を作り続けても、まだまだ修行中とお話される職人がほとんどなのです。
以上の事から、本節とは、大変貴重な鰹節であり、最高級に位置するものなのです。
1-2. 本節と他の節との違い
本節の定義というものは定まっておりません。
しかしながら、鰹節業界で「本節ではない」という物がいくつか条件としてありますので、「本節」と他の節の違いという物を探して出してみたいと思います。
1-2-1 魚の種類
魚の頭や内臓などの一部を除去したり、または除去しないまま煮た後に、火の煙で炙る、又は乾燥させる為に風を当てる作業をして完成したものは、鰹から出来た鰹節、鯖から出来た鯖節、宗田鰹から出来た宗田節、イワシから出来た煮干し類、トビウオから出来た飛魚(アゴ)節、鮪(まぐろ)から出来た鮪節があります。
この中で、鰹節以外で「本鯖節」「本鮪節」などと鰹節以外で呼ばれているものはありませんので、本節は鰹節のみにつけられる名称でしょう。
1-2-2 包丁で3枚卸にする
現在の鰹節は、生の鰹を主に包丁で卸す方法と「ヘッドカッター」と呼ばれる自動カッター機で鰹を切る方法がありますが、姿を重んじる本節はヘッドカッターを使わず包丁で卸します。
よって包丁で3枚卸にする事もその条件に当てはまるでしょう。
1-2-3 修繕をする
本節を作る工程の中で、鰹節の全体を流線形に綺麗にする為に、修繕という工程を行います。
これは同じ鰹を煮た時に、同じ鰹から出た細かい身を同じ様に煮て、すりつぶした物をすりこませ、形を整えます。他の節類は姿売りにならずに修繕をしないので、修繕をするという事もその条件に当てはまります。
1-2-4 表面削りをする
煮た鰹を燻焙(ばいかん)という工程で煙でいぶします。
その後にカビを付けるのですが、カビを付ける時に、鰹節の表面を削りタール部分を取り除きます。この工程も「本節」になるには、必要な条件です。
1-2-5 カビ付けを行う
次にカビ付けを複数回行います。鰹節の表面に優良カビを付けて、3~4週間寝かせて天日干しをします。1回だけでは足りず、これを複数回行いますが通常は3回程度です。

以上の事を条件としてクリアした後に最後に「姿売り」として販売できるもののみが「本節」と呼ばれるのです。
1-3. 本枯れ節と準本節と荒本仕上げ
本節の別の呼び方で「本枯節(ほんかれぶし)」と呼ぶ方もいます。
しかしながら同じ本節を本枯れ節と消費地の関東地方の方が呼んだり、製造元である焼津で呼ぶ事はありますが、もう一つの製造元である鹿児島の方は本枯れ節とは呼びません。
本節は姿売りにする為に「修繕」を行いますが、修繕を行わずにカビを付けたものを準本節(じゅんほんぶし)と呼び、予め製造予定の中で本節の前段階である「荒本」と呼ばれる節で完成させようと思っていたものが、出来上がりがカビを付けた方が良さそうだと思ったものは、表面にカビを付けて荒本仕上げ(あらほんしあげ)と呼ばれる節もあります。
このあたりは、言葉に対する定義づけがされておらず、鰹節業界の人でも呼び方を違った言い方で呼ぶ方もいます。
2 上手な本節の削り方
次に本節の削り方について説明いたします。
2-1. 2種類ある削り器
まずは削り器の選定です。削り器はあまり知られていませんが、実は2種類あります。
2-1-1 従来型
従来の削り器です。値段や大きさは様々で4000円~1万円以上するものなどあります。

2-1-2 従来型のミニ版
こちらは従来の削り器のミニ版です。お土産用やプレゼントに最適です。静岡県伊東市の杉本鰹節商店さんで購入できます。
お問合せ電話番号0557-81-2648

しかし残念ながら本節は大きすぎて削れません。

2-1-3 新型削り器
こちらが新型削り器です。あまり知られておりませんが、一般家庭用でも販売されており、シリーズ化されております。
愛工業さんの「かつおぶし削り オカカ」
お問合せ電話番号 0548-29-1000

削り刃が複数ついています。

交換用取り替え刃が予備で付いています。

一般の家庭用では、従来型と新型がありますが、従来型より新型削り器をお勧めします。もしかしたらご家庭に従来型が残っているかもしれません。それでもこちらの新型器をお勧めします。
なぜなら削り刃と本節には相性があり、従来の削り器では相性の影響が良い方には表れにくいからです。

2-2. 削り刃と本節の相性とは「熱」が関係する
本節を上手に削る為には、熱が非常に大切になってきます。もしかしたら、上手に削れない時に、
- 節側を表面のカビを取ってから削ると削れる。
- 少し水に浸してから削ると削れる。
- 少し温めてから削ると削れる。
というような事を経験された事があるかもしれません。対処方法は全てが正しい内容です。それでも上手に削れる時もあれば、削れない事も有ると思います。
これはあくまでも本節側の状態を変えるだけであり、「削り器」側の事が説明されていません。実は、削る器の刃の部分が温かくないと鰹節の花は大きい物になりにくいのです。
ここで業務用の大型削り機で「熱」について説明します。こちらの写真には、鰹節を削る為の刃が14枚付いています。この盤が高速回転をし、そこに鰹節を押し当てる事により鰹節を削っていきます。鰹節を機械で盤に押し当てるので、すぐに盤と鰹節の間で摩擦が起こり、盤が温まります。そして熱が刃に伝わり、花が上手に大きく削れるようになるのです。
しかしながらずっと同じ状態でいますと、盤が今度は手で触れる事ができないほど熱くなります。これはこれで逆に削れなくなるのです。写真の中心に穴が沢山開いていると思いますが、こちらは熱を逃がす為の工夫であり、程よい熱が盤に伝わり、その熱が刃に伝わりますと、削りやすくなるのです。
家庭用の従来型の削り器では、あまり熱も発生せず、熱が刃に伝わらないのですが、新型は盤に刃がついており、本節との接触面で摩擦により熱が発生し、削り易くなります。メカニズムは分かっておりませんが、程よい盤の熱さが、より本節を削りやすくするのです。
2-3. 上手に削る為の削り方
ここで新型削り器「オカカ」を使って削り方を説明します。
2-3-1 節のカビを取る
鰹節の表面のカビをいったん水で濡らしたタオルを固く絞り、カビを落としてください。
2-3-2 節をセットする
節を削り器にセットしてください。向きは、表面が盤に広く当たるところで構いません。
削り始めは、表皮の部分の黒い箇所や残りカビがでますので、こちらは捨てます。

再度削ってください。

こうする事により削られた鰹節が出てきました。
「オカカ」には削り方や連絡先が記載されている取扱説明書も同封してあります。

2-4. 保存方法
次に保存方法について説明します。削る前の本節と削った後の削り節についてです。
2-4-1 本節は冷蔵保存
削った後の本節の保存方法ですが、まずは冷蔵庫に入れてください。
水分が低いので、改めて使用する時、水が鰹節の旨みを吸い取りながら、外に出てきてしまうというようなことはありません。基本的には冷蔵庫の中に入れておけば、1年でも2年でも持ちます。
他の食品と香りが移る事を気にされる場合は、サランラップか保存用ビニール袋に入れてください。使用する時は、冷たい物よりは、常温に戻しておいた方が上手に削れますので、使用する数時間前に冷蔵庫から出してください。
2-4-2 削り節は冷凍保管
まずは保存を考えるのでなく、すぐに食べる事をお勧めします。
本節を削った物は、削った時点から風味が飛んでいきます。香りが空気中に含まれている酸素と触れる事により分解されなくなっていきます。30分もしますと色が変わり風味も落ち、沈んでいきます。
ですから削ったら直ぐに食べてください。もし削った物を保存したい場合は、削った直後に保存用ビニール袋に入れて袋の空気を抜いて冷凍庫にしまってください。その際、冷凍庫に入れたまま忘れないようにしてください。長期保存が可能なだけに忘れる方もおります。
3 本節を購入する時のポイント
本節を購入したい場合、何を基準にして購入すればよいのでしょうか。選別方法について説明していきます。
3-1. どれを選んでも問題ない。
まず、インターネットで「本節」の購入をご検討する場合「思わず舌鼓」さんが九州の枕崎の鰹節職人さんが作られる本節をご紹介しており、お勧めです。
また、店舗でしたら江戸時代から続く老舗の東京日本橋の「にんべん」さんをお勧めいたします。どれを選んでも問題ありません。なぜなら、職人が手間暇かけて作った物ですので、本節が商品として問題があるものが出回る事は無いからです。
3-1-1 男節と女節
鰹節には背中側から作られた男節と腹側の女節があります。
見た目重視なら男節、旨み重視なら女節です。男節は脂肪分が比較的少ないので、削ると花立ちがよく粉が出にくいです。女節は脂肪分が多く、粉が出やすいです。多くの方は男節を購入されますが、脂肪が多い女節は、その分旨みを含んでおり、鰹節関係者は、女節を購入し色々な食材に使用される方もおります。
食べ物の色具合や見た目を重視されるようでしたら男節、旨みをより引きだたせたい場合は女節、または両方購入して、料理によって使い分けするのも良いかもしれません。
3-1-2 叩かない
本節はお店では絶対に叩かないでください。
確かに鰹節職人は叩く事で中の水分の含有量が解りますが、商品として出回っているものは、水分が取り除かれており、どれを選んでも問題ありません。
3-1-3 賞味期限
もともと長期保存食として重宝されておりました。冷蔵庫に入れれば2年は持ちます。
これは鰹節の周りにタール分が薄く付着しており、その更に周りに優良カビがついており、コーティング作用がされているからです。2年という期間も決まっている数字ではなく、それぐらいまでには使用していると思い、お伝えした数字です。
3-2. すでに削った物を購入したい場合の見分け方
実は本節を削った物が販売されていることはありません。なぜなら節そのもので販売される物を「本節」と呼ぶからです。ここで改めて1-3で説明した内容を確認してみます。
本節は姿売りにする為に「修繕」を行いますが、修繕を行わずにカビを付けたものを準本節(じゅんほんぶし)と呼び、予め製造予定の中で「荒本」で完成させようと思っていたものが、出来上がりがカビを付けた方が良さそうだと思ったものは、表面にカビを付けて荒本仕上げ(あらほんしあげ)と呼ばれる節もあります。
つまり修繕という工程を経ずにカビを付けたものが削られたものは存在します。これを理解した上で、「カビ」が付いた鰹節を削った物をお店で購入するにはどうしたら良いでしょうか。 一般的にはカビがついている物とついていない物がありますので、お店での見極め方をお伝えします。
カビが付いた準本節や荒本仕上げなどの鰹節を削った製品の裏ラベルには、「かつおぶし削り節」とかいてあり、カビが付いていない鰹節を削った削り節の裏ラベルは「かつお削り節」となっています。
ですので、「かつおぶし削りぶし」を購入してください。
最後に
本節は鰹節の中でも最高級品であると同時に、とても希少価値が高い物です。
そして食べても非常に美味で、その美味しさの理由はまだ解明されていない部分もあります。その美味しさは職人達が受け継ぐ技術の中で、ゆっくりと創り上げられてきました。ぜひ職人の技を感じながら美味しく味わってください。
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