「和食文化」っていったいなんだろう?
和食が無形文化遺産に登録されて国内だけでなく世界からも注目されています。そのためか海外からの旅行者の目的のひとつは「和食を食べること」ともいわれています。
まず、「文化」とは、『広辞苑』より抜粋すると「人間が自然に手を加えて形成してきた成果」「衣食住をはじめ、技術・学問・芸術・道徳・宗教を含む。」とあります。そもそも「食事」という日常の行為は本能的なもので、広い意味では動物にも共通しています。
しかし人間は文明が進むにつれて、マナーをつくり調理法や盛り付けなど「食」にまつわることを洗練された行為にかえてきました。
このことは世界中で発生した流れです。結果として最初に「フランスの美食術(ガストロノミー)」がユネスコの無形文化遺産として登録され、とうとう日本も平成25年(2012年)12月4日「和食:日本人の伝統的な食文化」として登録されました。
このことで「和食」が食文化として世界中に認められたのです。
ここでは「和食」の何が文化として認められたのかの経緯とこれからどのように継承していくべきかを各文献をもとに私目線でやさしく解説します。
目次
1. なぜ文化となりえたか
和食が「文化」として世界に認識されたのはやはりユネスコの「無形文化遺産」の認定によることが大きいでしょう。
ユネスコの無形文化遺産は「歌舞伎」や「能楽」などの芸能や民俗行事が主流ですが、実際の対象となるのは以下の5つの分野です。
- 口承により伝統及び表現
- 芸能
- 社会的慣習、儀式及び祭礼行事
- 自然及び万物に関する知識及び慣習
- 伝統工芸技術
「和食とは何か」:思文閣出版より
それぞれ「和食」がどのように結びつくのか1分野ずつ当てはめて説明します。
1-1 口承による伝統及び表現
和食の文化は箸つかいなどのマナーや食卓での配膳等ルールが存在し、その意識は家庭で親から子へ、子から孫へ伝えられています。つまり「口承」により伝承ができているということです。
和食の料理人による「包丁つかい」などの調理技術や.盛り付けの技術は独自のものがあり今日まで伝えられてきました。
「和食は目で味わう」この言葉が如実に証言しています。
以上のように、「箸つかいのルール」「食卓の配膳法」などの作法。「盛り付けの基本形式」などの表現やそれを実現するために飾り包丁などの「包丁つかい」及び調理の技術が和食ならではの文化となります。
1-2 芸能
食文化には当てはまりません。
1-3 社会的慣習、儀式及び祭礼行事
ここでいう「社会的慣習」とは、年中行事と「和食」との密接なかかわりのことをいいます。一番わかりやすい例がお正月です。
12月の歳の暮れ、今ではかつてほど多くはありませんが各家で餅をつき、または購入し正月を迎える準備をします。お餅は神様へのお供え物といたしました。大小の丸餅を重ねた「鏡餅」は正月飾りに欠かせません。
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雑煮:関東風醤油仕立て | 雑煮:関西風白味噌仕立て |
お餅は「雑煮」としていただきます。地域ごとにその土地ならではの食材を使い多彩な雑煮が存在します。
また、お正月につきものなのが「おせち料理」です。現在ではすべて手作りする家庭は多くはありませんが、例年11月を過ぎれば趣向を凝らしたおせち料理の宣伝が目に入るでしょう。
「長寿」と「子孫繁栄」「五穀豊穣」などを願う気持ちが盛り込まれ、今年一年の息災を家族で祈ります。
季節の移り変わりでめぐってくる年中行事とは別に人生の節目に行われる行事があります。
身近な例ではお祝い事の「赤飯」や「鯛」は誰もが知っている行事食の一つです。
これらはすべて「福を招き、災いを遠ざける」日本人の願いが込められています。
根底には「万物に神が宿り」「それらの神に感謝する」という日本人の精神の表れを示しています。これらの思想及びそこから生まれた料理が文化として評価されました。
1-4 自然及び万物に関する知識及び慣習
日本には四季があり、季節の移ろいが顕著です。料理にその影響が強く表れ、料理に季節感を盛り込むことが尊ばれています。食べられない葉や花を料理のあしらいに使うほんのわずかな演出を作り手も食べる側も感じ取っています。
また、初夏に「初カツオ」、秋になれば「新米」を味わい、旬の食材を珍重する気持ちはその季節の到来を感じとるためかもしれません。
さらに日本は多くの地域が温暖な気候で年間の降水量も比較的多いことが特徴です。その気候の特性から独自の発酵食品や食品の保存方法・加工手段が生まれました。
腐敗と発酵はある意味紙一重です。腐敗させることなく食品の味や栄養をより良く変化させる技術は多くの人の工夫があったことでしょう。
また、軟水の豊かな水は鰹節・昆布などから引き出された「うま味のだし」が和食の発展に影響しており、日本人が解明した「うま味」は欧米のシェフも注目しています。
海に囲まれた日本の立地、気候風土を活用した独自の食品加工技術は世界に誇れる文化です。
1-5 伝統工芸技術
和食の食器(陶芸・漆芸)がこれに該当します。
料理に季節感を盛り込むことにのみならず、和食は器にも季節や華やかさあるいは「わび」「さび」を求めてきました。和食にとって器は「料理の衣装」といわれます。料理にふさわしい「色」「形」を求める精神が日本の陶磁器を技術及びデザインとも世界のトップクラスに発展させました。
汁椀に多用される「漆器」は英語で「JAPAN」とも言います。漆器と言えば日本製という立ち位置が確立されているということです。
「花鳥風月」「四季の美しさ」を表現した和食の食器はまさに文化にふさわしいものです。
2. 文化のこれから
今まで見てきたように「和食の文化」は私たちの身近なところで光っています。しかし無形文化遺産に登録されたといっても、文化は私たちが日々の生活の中で実践しなくてはすたれてしまいます。それをどのように伝えていったらよいのでしょうか。またこれからどうなるのでしょうか。ポイントを二つ説明します。
- 学校や地域での「食育」
- 家庭での文化の継承
2-1 学校での食育
無形文化遺産の登録申請書には「実践者はすべての日本人である」と著されています。
本来の実践者は私たち一般の日本人です。しかし最近では社会や個人の生活スタイルの変化に伴い家庭内での伝承が難しくなってきたと言わざるを得ません。そこで期待されているのが、学校給食の主食を「米飯」にして和食文化を味わう機会を増やす取り組みです。
米飯にすればすべて解決するわけではありませんが、「一汁三菜」の栄養バランスに優れた献立を慣れ親しむことができます。何よりや多くの人ともに食べる経験からマナーを学び、食べる楽しみを覚えていきます。
2-2 家庭での和食文化とこれから
和食文化を次につないでいくためには「いただきます」「ごちそうさまでした」のあいさつが大切です。
文化は時代の変化で変わるものです。1970年代よりファーストフード店が開店し、コメの消費量が減っているともいわれています。しかし、コンビニでのおにぎり売り場の賑わいやスーパーの漬物コーナー、すしや煮物など総菜売り場の充実ぶりを見ると和食の人気は根強いものがあります。
また海外からのお客様は来日の目的に和食を食べる事を上げるなど和食自体の魅力は再確認されています。
和食文化はいにしえより日本は外国からに食品や文化を取り入れ、日本の風土や知識と知恵で築き上げられてきました。
家庭において今の形を何が何でも続けることはむずかしいかもしれません。これからも消費者のし好や新しい調理法や食品を受け入れて進化するでしょう。10年後には別のスタイルになっているかもしれません。
いずれにしても、これまでの伝統を継承しつつ豊かな食生活を広めていくことが大切です。まずは食べ物への感謝の気持ちをこめて「いただきます」「ごちそうさまでした」のあいさつでいただきましょう
3. まとめ
実をいえば、和食を無形文化遺産に登録しようとした理由はこのままでは和食文化が衰退する恐れがあるからです。和食文化は日本の風土に育まれ、日本人にとって大切なものです。
食事マナーを身に着けることで、一人前の大人として認められます。また、伝統的な食文化を守ることで、伝統的な食器・調理道具などを作る職人の技術や料理人の技も伝承されます。
世界中の人がみな同じ食事を済ませるようになったとしたら「その国らしさ」が失われ、つまらない世界になるでしょう。
和食文化の守るべき基本を正しく伝えて、健康で豊かな食生活を続けたいものです。
参考文献
和食文化ブックレット:「和食とは何か」「和食の歴史」:思文閣出版
農林水産省パンフレット:「和食」を未来へ
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