あなたは、椀物の正しいマナーを習得したいとお考えではありませんか?
高級な料亭で恥ずかしい思いをしたくないのではないでしょうか?
そんなあなたにまず知っていただきたいのが「椀物」と「汁物」は全くの別物であるという事実です。よく誤解されがちですが、正しくは以下のように整理できます。
・ 椀物:お椀を使った料理全般(汁物だけでなく煮物なども含む)
・汁物:お吸い物などの汁を使った料理(使用するお椀は関係ない)
つまりマナー以前の問題で、椀物そのものを正しく理解できている人が少ないのです。 私は10年間、板前として椀物に触れる機会が多かったのですが、このような前提知識が抜けている方が多いと感じていました。そして、椀物の取り扱いに慣れていない方や間違っている方がたくさんいらっしゃることに気づきました。
私は全ての日本人に和食の正しい知識とマナーを持っていただきたいと心の底から思っています。 そこで今回は主に以下の2点について解説していくことにしました。
・椀物の正しい定義
・椀物の取り扱いに関するマナー
ぜひ本記事を読んで、椀物の知識や扱い方を習得してください。そして、取引先や家族、友人との和食の席を思う存分楽しんでいただければ幸いです。
目次
1.椀物とはお椀に入った料理のこと
椀物とは、お椀に入った料理全般のことをいいます。
和食で椀物と言えば、お椀に入って提供される「お味噌汁」「お吸い物」などが代表的ですが、煮物料理の器にお椀が使われていれば、椀物と言っても問題はありません。
ただし、ご飯を盛るお茶碗も椀と付きますが、椀物料理とは別物と考えた方が良いです。
お茶碗とはもともと茶の湯に用いられるお茶を入れて飲むための器を指すもので、近年では陶磁器で作られることが多くなり、ご飯を盛った時にお米が陶磁器にくっつきにくい特徴があるため飯茶碗として使われるようになりました。
現在では、お茶碗と言えばご飯を入れる器を指し、料理をお茶碗に入れて提供することはないのです。
お椀と付く食器はたくさんありますが、日常でよく使われるものとして、茶碗・湯呑み茶碗・蒸し茶碗などがありますが、“椀物料理”とした場合、以下の表の様になります。
また、料亭や小料理やなどで椀物料理を注文すると、
関東地方:「汁物料理」
関西地方:「煮物料理」
と認識されることがあり、地方によっても違いがあります。
1-1 お椀に使われる材料
お椀というと木をくりぬいた形の木製茶碗をイメージしがちですが種類は様々あり、木製の他にも金属製・土製(陶磁器)などのお椀もあります。
木製椀
鉄製椀
磁器椀
もともと日本の食器は、木を削りだした木製食器でした。
平安時代になると、中国から陶磁器が伝わります。
当時の人達は木製茶碗で食べていたご飯を中国からもたらされた陶磁器に入れるようになり、おかずを入れていた木製のお皿も陶磁器に盛るようになりました。
しかし、汁物を入れるのがお椀だけが陶磁器になりませんでした。
1-2 お椀が陶磁器にならなかった理由は熱の伝わり方
お椀が陶磁器にならなかった理由は、熱い料理を直接に手に取り、口に運ぶのが陶磁器ではできなかったからです。陶磁器は熱が伝わりやすいため、熱い汁が入った汁物椀は手に取り口まで運ぶことが出来なかったのです。
また、木製のお椀は、料理が冷めにくく、熱い汁物を入れてもお椀の表面に熱が伝わりにくいので、今日まで木製のお椀が多く使われているのです。
ちなみに鉄製椀は、冷たい料理に使うと冷たさが長続きしますので、酢の物などの料理に使われることが多いです。
2.これだけは覚えておきたい椀物マナー8選
日本料理店や料亭などで使われる器、特にお椀は高価な塗り椀を使っていることがあります。
椀物は料理の最初に出てくることが多く、これから提供される料理に華やかさを添えるような塗り椀や“侘び寂び”といったような静かなたたずまいからも威厳を感じるような塗り椀まで会食の目的や季節に合わせて提供されます。
このようなお椀は見ているだけだととても美しい物なのですが、提供するお店側としてはとても注意を払う品物なのです。塗り椀の塗料は衝撃に弱く、少し落としただけでも塗料が落ちてしまうことがあるのです。
特にお椀の蓋は、直接料理に触れるものではないため、お椀から離されるとあまり丁寧に扱われなくなってしまうものです。お椀の蓋も塗りが剥げてしまわないように丁寧に扱い、飲み終わった後のお椀の蓋は裏返してお椀に戻すのではなく、運ばれてきた時と同じ状態に戻しておきましょう。
食器の扱いを丁寧におこなうという意識が出ると動作が必然的にゆっくりとなるため、食事も落ち着いた雰囲気の中でとることが出来ます。
2-1 蓋の開け方マナー
お椀の蓋を開けるにもマナーがあります。
蓋を思いっきり引っ張ってしまい、お椀の中身が飛び出してしまった経験がありませんか。
お椀の蓋の開け方は、
①左手でお椀の側面を持ち固定します。
②右手でお椀の蓋の先端部を親指・人差し・指中指で固定する。
③ゆっくりと左側から上部に引き上げます。
右側から上部に持ち上げると親指が下側になるため、お椀の蓋を持ち上げにくくなります。
2-2 椀裏についたつゆの切り方
お椀の蓋の裏側には温かい料理を入れている場合、水滴がついています。
この水滴は上手に蓋を開けないと机やテーブルの上を濡らしてしまう要因になります。
蓋の開け方は、
左側から蓋をゆっくりと持ち上げ、垂直にしていきます。
この時、蓋の内側に付いた水滴は、お椀の中に落とし、半月を描くように蓋を開けと水滴が外に落ちにくくなります。
2-3 蓋の置き場所
お椀から取り外した蓋は、
・お椀が右側にある場合は右奥に蓋を置きます。
・お椀が左側にある場合は左奥に蓋を置きます。
「お椀が置いてある側の上に蓋を置く」と覚えておけば、間違いが少なくなります。
2-4 椀の持ち方
①蓋を取り外したら、両手でお椀の側面を持ちます。
②左手だけでお椀を持ちます。
③右手で箸を取り、器を持った左手の指先に箸先を置きます。
④右手で箸を正しく持ち直します。
⑤お椀を持つ左手を椀の底に移動します。
2-5 椀の飲み方
お椀の汁物の飲み方にもマナーがあります。
①お椀の中の具材を箸先で軽く押す。
②一口目はお椀の中の具材が出ないように箸で押さえ、汁を一口含みます。
この時、音を立てて飲むのはマナー違反です。
2-6 椀の食べ方
お椀の中の具材が大きければ、一口サイズに割っても問題ありません。
お椀の食べ方で注意しなければならないのは、先に汁だけを飲み干して、最後に具材を食べることです。
具材を最後に食べるとお椀の中に具材のカスが残ったままとなり、見た目が悪くなってしまいます。
ほんの一口分の椀汁を残して、具材を食べ切ったら椀汁を飲み干すようにしましょう。
2-7 椀物のおかわり
椀物をおかわりすることは問題ありませんが、料亭などのお店によってはおかわりをお断りすることもあります。
料亭の場合、提供する料理の順番が決まっているため、次の料理に取り掛かっている場合がありますので、お店のスタッフにそっと聞いてみましょう。
2-8 椀物の食べ終わり
お椀を食べ終わったら、運ばれてきたようにお椀の蓋を正しく戻します。
お椀の蓋はひっくり返してはいけません。
お椀の蓋をひくっり返して置くのはマナー違反です。
3.まとめ
椀物とは、お椀に入った料理全般のことをいいます。
椀物の器は木製であることが多く、手触りの柔らかさや料理が熱くても持ちやすいなど器を直に持つ和食(日本料理)を代表する食器と言えます。
和食を食べる時にこの椀物のお話を思い出してくれたら、幸いです。
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