精進だしって知っていますか?精進だしとは昆布やシイタケなど植物系の食材からとれるだしの事です。
そもそも「精進」とは「雑念を去り一心に仏道修行する」という仏教用語に由来します。では、精進だしはお肉や魚を使わない「精進料理」を作るときだけに使うの?いえいえ、それだけではありません。
お肉やお魚と組み合わせて、和食はもちろん洋食にも幅広く使えます。
精進だしをおいしく味わうための大切なポイントは2つだけです。
- だしの取り方は「乾物は水から」「生の野菜は煮だして」
- お肉やお魚を合わせること
いつものスープや煮物がワンランクアップすること間違いありません。材料は昆布やシイタケそして野菜など特別な食材は必要なく、思わぬ素材も精進だしに使えます。さあ、精進だしを今すぐ作ってみましょう。
1. 精進だしとは
精進だしは「昆布」「干しシイタケ」など植物系の材料を使っただしのことです。特に肉類や魚料理との相性がよく、素材の風味と相まって奥行きのある味わいの料理ができます。
もともと精進だしの「精進」は大辞泉によると仏教用語であり、かつて仏僧が「雑念を去り、仏道修行に専心する」ために肉食を断った食事を「精進料理」とし、精進料理を作るために使うだしが「精進だし」といわれます。
精進だし対するだしは鰹節や煮干、肉類など動物性の食材を使ってとっただしです。
精進だしのうま味成分は主に「グルタミン酸」や「グアニル酸」です。いっぽう魚肉類からとっただしのうま味成分は「イノシン酸」が代表的です。精進だしは和食において鰹節のだしと双璧となっています。一つの食材を使っただしでも、各々の食材の風味が醸しだす淡いうま味が味わえますし、さらに鰹節のだしと合わせて調理することで驚くほどおいしくなります。
精進だしの主な材料は3種類です
- 昆布
- 干しシイタケ
- トマト・グリンピース・白菜・きのこ かんぴょう 切干大根 他野菜
それぞれの特徴を説明します。
1-1 昆布
精進だしの代表的な材料です。昆布の産地は国内ではおよそ95%が北海道産といわれます。生育する環境によって昆布の形状や味が異なるため産地名がそのまま昆布の銘柄になります。
おいしさの秘密はうまみ成分であるグルタミン酸やアスパラギン酸です。だしをとるためには「利尻昆布」「真昆布」「日高昆布」が有名ですが、どの銘柄でもうまみは充分含まれています。
手にはいりやすい銘柄の昆布で大丈夫ですので、昆布の優しく、心地よいおいしさを味わってください。ただし、「早煮昆布」は一度蒸してあるのでだし取り用には不向きです。
利尻昆布 | 真昆布 | 日高昆布 |
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1-2 干しシイタケ
しいたけは生で流通しているものと乾燥した干しシイタケとの2種類があり、精進だしには干したシイタケを使います。干しシイタケのうま味成分はグアシン酸といいます。
干しシイタケのだし汁は森の木を思わせる強い風味と独特の香りが特徴で、料理を奥行きのある味にします。単独で使っても良いのですが、鰹節や昆布のだし汁と組み合わせるとさらに風味が数倍にはね上がります。
1-3 トマト他野菜全般
私たちが日常的に食べる野菜でも精進だしは取れます。野菜の主なうま味成分はグルタミン酸です 。
下図の通り多くの野菜にグルタミン酸は含まれています。洋食やラーメン繁盛店でもネギや玉ねぎ、ニンジン、セロリなどでだしをとっている光景をテレビなどで見ることもありますよね。つまり野菜などからだしを取る方法は古今東西でひろく知られているということです。
意外なところでは、実をそいだ「トウモロコシの芯」やひげも、とうもろこしの風味のする甘みのあるだしが取れます。他にもキャベツやブロッコリーの芯も良いだしが取れます。食材を余すことなく使う精進料理の精神が精進だしでもいきています。
2. 精進だしの取り方
精進だしの取り方は大きく分けて2つの方法があります。「水だし」と「煮だし」です。
2-1 乾物は「水だし」
昆布や干しシイタケ、切干大根、かんぴょうなど乾物には「水だし」法を使います。やりかたは簡単。小ビンや小さい容器に材料と水を入れて、そのまま冷蔵庫で保管するだけです。そのまま最低5時間ほど漬けておけば、しだいに水の色が変わってきます。食材のうま味が水に溶けだしたしるしです。
昆布 水漬け直後 | 昆布 5時間漬けたもの |
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特に干しシイタケは必ず水につけて戻しましょう。そして冷蔵庫から出したらすぐに加熱調理しましょう。これは干ししいたけのうま味成分である「グアニル酸」を干しシイタケから十分引き出すための方法です。
干しシイタケ 水漬け 直後 | 干しシイタケ 水漬け 5時間後 |
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水と食材の割合はお好みで大丈夫です。水が多ければそのまま使えますし、水を少なめにすれば濃いだしが取れて水で薄めて調理することも可能です。さらに水を追加すれば繰り返しだしが取れます。昆布はこの方法をお勧めします。私は冷蔵庫に保管しつつ、1週間をめどに使っています。そして最後は刻んで煮物・炒め物・みそ汁や具などに使います。
だしを取った後の食材にもうま味や栄養素は充分残っています。食材を余すことなくいただきましょう。
2-2 生の野菜は「煮だし」
生の野菜類は「煮て」だしを取ります。
水から弱火で煮立たせないような火加減で5分から10分煮だします。トマトや大根、トウモロコシなどそれぞれの持ち味を感じさせつつ、優しいうま味を味わえます。強火で長い時間煮こむと香りが飛んでしまいますので、弱火で火が通るまでの時間が目安です。
この方法はスープやみそ汁、煮物などに最適です。食べやすい大きさに食材を切ったら、水から弱火で火にかけます。具材が柔らかくなったら、お好みの味付けをしてください。もちろん具材としてスープとともにいただきましょう。
煮だしでだしが取れる変わり種の素材は「枝豆」。さやの産毛が取れるように、こすり合わせてよく洗います。できれば、軸の部分を切り落としてだしが出やすくします。だだちゃ豆の産地山形県ではみそ汁の具として一般的とのこと。
捨ててしまうような部分でもおいしいだしがとれる「精進だし」の煮だし法は食材を大切にし「食材の命をすべていただく」という精進料理の神髄をあらわしています。
3. 肉や魚にあわせてうま味倍増
精進だしにはお肉や魚など動物系の食材と合わせるとそれぞれのうま味が掛け合わされて、おいしさが倍増されます。
私たちが「おいしい」と感じる成分の代表的なものは「グルタミン酸」「イノシン酸」もう一つ「グアニル酸」があります。これらはひとつづつでもおいしさを感じることができますが、1種類より2種類。2種類より3種類の成分を一緒に食べたほうが、うま味が7倍~8倍多く感じるそうです。これを「うま味の相乗効果」と言います。また食材自体の風味も相まって、さらに奥深い複雑な味が生まれます。
つまり「精進だし」のように、だしに「グルタミン酸」「グアニル酸」が主体ならば、ともに調理する材料には「イノシン酸」を多く含む「肉」や「魚」との組み合わせが最適です。
和食の世界では「昆布」と「かつお節」の合わせだしは基本のだしとして古くから親しまれています。経験に裏打ちされた日本人の知恵と工夫が生きていますね。
精進だしは精進料理を作る時だけに使うだしではありません。いつも食事に加えるだけで素材ひとつひとつのうま味を際立たせ、よりおいしい料理ができます。献立に悩んだ時にこの3つの組み合わせを思い出してください。
4.さいごに
ここにあげただしの取り方や使い方はあくまでも大まかな目安です。調味料でさえ、製品によって塩分や甘みはそれぞれ違います。まして天然の食材である昆布やシイタケ、野菜などは取れた時期や産地で味は大きく変わります。
ですから、実際に調理していく中でそれぞれに好みに合うよう量を加減してください。「いつも味が変わってしまう」というご相談もありますが、いつも違うからこそ「家庭料理」ですし、だからこそ何度食べても飽きないのではないでしょうか。
精進だしは手元にある素材や身近で買える食品で簡単に作れます。あなたらしい味を求めて暖かみのある料理を作ってみましょう
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