「グルタミン酸ナトリウムは危険」という噂を聞いたことがあると思います。調べると、たくさんの情報が出てきて、結局よくわかりません。
グルタミン酸ナトリウムを心配する1つ目の原因はグルタミン酸による動物実験で確認された、神経毒性だと思われます。
確かに、動物に注射して体内に投与した実験条件では、ほとんどの事例で毒性が見られました。しかし、口からの摂取の場合は、一度に大量でなければ影響は見られませんでした。
2つ目の原因は、「中華料理店症候群」の影響です。この症状を報告した後、多くの研究者はより厳密な実験条件で再現を試みましたが、再現できませんでした。結局「グルタミン酸ナトリウム症候群」とも呼ばれた「中華料理店症候群」の原因がグルタミン酸ナトリウムだとは特定できませんでした。
3つ目の原因は、グルタミン酸ナトリウムは化学的な成分だと誤解されているからだと思います。しかし、現在の製造法は発酵法を用いて製造されているため、化学物質を使ったものではありません。
これら以外にもグルタミン酸ナトリウムの安全性は、複数の国際機関により繰り返し発表されています。その証拠を確認してみましょう。
目次
1、グルタミン酸ナトリウムは危険ではありません
グルタミン酸ナトリウム(MSG)とその中に含まれたグルタミン酸(Glu)は食品添加物として用いられるようになった歴史は1909年にさかのぼります。食品添加物という言葉は、食品衛生法の成立とともに公用語となり、1960年に厚生大臣が198品目の物質を指定しました。その中にグルタミン酸ナトリウムが含まれています。
さらに、食品添加物に関する国際連合食料農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、グルタミン酸ナトリウムとグルタミン酸の安全性・有用性を慎重に評価した上で、それらの安全性が再確認されました。
それ以外にも「グルタミン酸ナトリウムは危険ではない」という同様の結論を出した国際機関には
- 米国食品薬品局(FDA)
- ヨーロッパ食品情報会議(EUFIC)
- 欧州連合食品化学委員会(SCF)
などがあります。
例外的に乳児の場合は、成人と比べ敏感なため、生後12週前の乳児には使用しないこととしました。
より正確に述べれば「グルタミン酸の使用に関して、妊婦および乳児を特別に扱わなくてはならない科学根拠はないが、食品添加物の一般的見解としてグルタミン酸を生後12週以前の乳児には使用すべきでない」という文章でした。
これらのように多くの国際機関で安全であると発表しているにもかかわらず、現在にも「グルタミン酸ナトリウムは危険物だ」と考えている人々が存在しています。
2、なぜ危険と言われたか
主に3つの理由で危険物として誤解されました。
1、動物実験でグルタミン酸ナトリウムの摂取により、脳の損傷や目の神経細胞死による失明など神経に対する毒性があるかのような研究報告がありました。
2、中華料理を食べた後に、その中に含まれた調味料として使われたグルタミン酸ナトリウムが原因となって頭痛、発汗などの症状(中華料理店症候群)がみられたという臨床報告があった。
3、グルタミン酸ナトリウムは化学的な手法や化学原料で作られたため、体に悪いというイメージができてしまった。
本当はどうなの?
2-1、動物実験について
2-1-1、実験方法
Lucas-Newhouse(1957)は、1kgの体重につき4~8gのグルタミン酸ナトリウムをマウスに皮下注射することにより、マウスの網膜に神経細胞の壊死を誘発させました。
Potts(1960)らは1kgの体重につき3.2gのグルタミン酸ナトリウムを生まれたばかりのマウスに飲ませた結果、網膜への影響を認めました。
さらに、Crawford(1963)は、脳代謝への影響を確認するために、グルタミン酸をマウスの脳の中へ直接注射しました。その結果、痙攣が誘発されたことを認めました。
その後、Olney(1969)は、2~9日齢のマウスに1kgの体重につき0.5g~4gのグルタミン酸ナトリウムを皮下注射し、目や脳の神経細胞の壊死が観察された実験で、グルタミン酸ナトリウムは大量投与による脳や網膜の神経細胞の変性・壊死へ誘発するような、神経に対する毒性を持っていると報告されました。
2-1-2、実験の手法についての疑問
冷静に考えれば、食事により摂取した事例と、注射した事例を比較するには現実的ではありません。条件の不一致性が高すぎます。
一方JECFAでは、マウスだけではなく、ラット、ハムスター、ウサギ、イヌ、サルなどの類別の違う動物の新生児を用いて、懸念されたグルタミン酸ナトリウムとグルタミン酸の神経毒性について59の実験を取り上げました。これらの実験ではグルタミン酸ナトリウムが主として皮下注射あるいは静脈注射で投与され、一部の実験ではきわめて高容量で胃の中に強制投与されていました。
ラット、マウスの実験では再現性が高く、サルの実験では、21件の実験のうち2件しか神経障害が見られませんでした。
結論的に、グルタミン酸投与による神経障害は血液中の濃度と関連しています。グルタミン酸ナトリウムに対する反応は動物種により異なり、マウスが一番高く、サルのような霊長類(人間と同じ動物類)は一番低くなっています。この実験から人間では1kgの体重に対して150mgのグルタミン酸ナトリウムを一度に摂取しても、神経障害引き起こすような血液濃度には至りません。食品添加物中のグルタミン酸ナトリウムは、消化の過程で分解され、血中に大量に入ることはありません。さらに人間の小児でも、グルタミン酸を消化する能力は成人と同等であることは知られています。
以上のことからJECFAでは、「グルタミン酸における神経毒性は食事による摂取条件では発生しない」と評価しています。
2-2、中華料理店症候群
中華料理症候群とは、中華料理を大量に食べた後に「頭が痛い」、「汗が出る」、「口やのどがひりひりする」などのような症状のことです。当時は中華料理に、大量のグルタミン酸ナトリウムが調味料として使われていたため、グルタミン酸ナトリウムが主要原因として挙げられました。そのため、「グルタミン酸ナトリウム症候群」とも呼ばれています。
しかし、グルタミン酸ナトリウムがJECFAの認めた安全物質であり、米ジョージワシントン大学のケニー博士は1985年、「中華料理店症候群」だという人を対象にグルタミン酸ナトリウム6gが入った水と、グルタミン酸ナトリウムが入っていない水を飲ませ、症状を比べたところ、グルタミン酸ナトリウムと「中華料理店症候群」は関連性がなかった、という研究結果を発表しました。
そのため、中華料理店症候群は、グルタミン酸ナトリウムが原因であることは特定できませんでした。 中華料理店症候群は「グルタミン酸ナトリウム症候群の真実|科学的根拠を用いて事実を整理してみた」の記事を読んでいただければ、疑問が解けると思います。
2-3、製造方法
昔は化学的な手法で製造していましたが、現在は微生物を用いた発酵法が主流となっています。
2-3-1、昔の製法―化学試薬の使用と化学的な手法
グルタミン酸ナトリウムが工業的に作り始められた初期の頃は、原料は自然由来のものを使っていましたが、化学的な手法で用いて製造されました。
まず、原料の小麦や大豆などに含まれたたんぱく質からグルテンを取り出し、そして、グルテンに塩酸を加え、反応させてグルタミン酸を作ります。最後に、グルタミン酸に水酸化ナトリウムを加えて中和させ、グルタミン酸ナトリウムを作るような方法です。
この製法の原料は天然由来のものを使いましたが、「塩酸で反応」や「水酸化ナトリウムで中和」は化学処理の手法でした。この方法は、非常にお金にかかり、工業的な製造は現実的ではないため、次の製法を考えました。
それは、石油由来の化合物アクリロニトリルを原料にした方法でした。まず、石油を精製して、プロピレンを取り出し、そして、プロピレンを原料にして、アクリロニトリルを作ります。最後に、アクリロニトリルを化学処理し、グルタミン酸ナトリウムを製造していく方法です。
この製法は、原料は工業的に合成された化学物質を使っています。そのため、グルタミン酸ナトリウムを体表的に使った「うま味調味料」が当初、「化学調味料」と呼ばれ、危険なものというイメージが定着してしまう原因になりました。
2-3-2、現在の製造方法―発酵法
現在のグルタミン酸ナトリウムの製造方法は、微生物を利用した発酵法が使われています。発酵法というは、醤油や味噌の作り方と同じです。
まずは、廃糖蜜をグルタミン酸菌と呼ばれる微生物に食べさせ、そして、グルタミン酸菌がグルタミン酸を作り出します。最後に、グルタミン酸と水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)を結合させ、グルタミン酸ナトリウムが出来上がります。
「廃糖蜜」は砂糖作るときに出るサトウキビの残渣です。廃棄物のような印象ありますが、実は、サトウキビの糖分以外に様々な栄養が凝縮しているものです。
しかし、最終工程のグルタミン酸をグルタミン酸ナトリウムにするには、やはり化学的な手法を使っています。
2-4、化学的な手法を使ったから危険とは限りない
化学的な手法で作られたから、危険だと断言することは間違いです。
例を見てみると、砂糖はサトウキビの絞り汁から作りますが、砂糖を作るのに必要のない物も混ざっています。色もきれいな白ではありません。そのため、純度の高い砂糖を作るには、精製などの化学処理が必要です。また、食塩は海水から作られたもので、やはり食塩の主成分塩化ナトリウム以外にもその他の物質が含まれています。純粋な塩化ナトリウムを作るためにも化学処理が必要です。この意味では、砂糖も食塩も化学調味料となります。
つまり、化学的な手法で作られたから危険とは限りません。グルタミン酸ナトリウムは、現在、醤油と味噌と同じ製法で、グルタミン酸を作り出し、使いやすいためやすくするため、化学処理をして食塩と同じような塩化物含めています。
3、適量摂取
以上のようにグルタミン酸ナトリウムに危険性はありませんが、適切な摂取量をお勧めします。
その理由は、グルタミン酸ナトリウムには食塩と同じような塩化物が含まれています。ナトリウムです。3gのグルタミン酸ナトリウムに1g相当の食塩が含まれています。グルタミン酸ナトリウムを使うと、塩味を抑えられ、まろやかに感じさせるため、大量の塩分を摂取してしまっても気がつきにくいのです。
また、グルタミン酸に過敏に反応する体質の人がいます。アメリカ食品医薬局(FDA)は、人口の2%がグルタミン酸ナトリウムに対して中程度の一過性の反応が見られるとしています。異常を感じましたら、医師の診断を受けることが大切です。
まとめ
通常の食事経由ならばグルタミン酸ナトリウムの摂取量は問題ないとは思いますが、砂糖や塩のように大量に摂取しても過剰摂取に気づかないので注意が必要です。
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