日本人の食卓には欠かせない物であり、普段何気なくテレビなどで紹介されている「旨味」。実は言葉一つ取りましても、「旨味」と「うま味」とでは違いがあるのです。
またその「うまみ」を感じさせる成分も、グルタミン酸やイノシン酸やグアニル酸など、代表的な物がいくつか存在します。実はこの成分に関しては、日本人の研究者が発見について多大な貢献をしていました。また成分も大切ですが、我々人間の味覚をつかさどる味覚センサーも、実はうま味を知る為にはとても大切な要素だったのです。
一体「旨味」とは何でしょうか? その成分とは? 味覚センサーとは? 調べてみましたので、ぜひ読んでみてください。
目次
1 旨味とは何か?
「うまみ」には3つの書き方があります。
「旨味」、「うま味」「UMAMI」です。その中で「旨味」とはおいしさを表現する言葉として使われます。
一方「うま味」と「UMAMI」は味覚として定義された言葉として使われます。ここでは言葉について、説明していきたいと思います。
1-1 旨味とは?
「旨味」とは美味しさを表現する大きな概念であり、色々な味が混じり合ったものを我々が表現する言葉で、普段の生活で使用する「美味しい」と同じ言葉です。
ですから甘くて美味しい物でも「旨味がある」と表現しますし、辛くて美味しい物でも「旨味がある」と表現しますし、または単純に「旨い」と表現する事があります。
1-2 旨味を決めているものは?
旨味を決めている物は、食べ物の温度、香り、テクスチャー(食感覚)、見た目など、多くの感覚要素があります。
例えば同じ食べ物でも温度が変われば、美味しさが変わります。また辛味は辛味物質のカプサイシンや渋味物質のタンニンが舌の表面にある痛覚神経を刺激します。
痛覚ですので厳密には「旨味」ではないのですが、日本人は辛いカレーが大好きですし、辛い食べ物を「旨い」「美味しい」と表現して好まれる方も多いです。これらの要素が複数以上重なり、「旨味」を表現しているのです。
1-3 うま味は基本味の1つ
それでは「うま味」とは何でしょうか?
人間の味覚には五つの基本味(きほんみ)があります。五つの基本味とは、砂糖やチョコレートや飴を食べた時に感じる「甘み」、塩や醤油などのしょっぱい物を食べた時に感じる「塩味」、苦い物を食べた時に感じる「苦味」、酢のような酸っぱい物を食べた時に感じる「酸味」。
そして今回とりあげる「うま味」です。基本味は、他の味覚を組み合わせても作りだせない味で、色の3原色のようなイメージです。そして基本味はそれぞれ期待させる味が違うのです。そしてこの「うま味」とはこの基本味として、認識されつつあるのです。
1-3-1 うま味は何を感じさせる?
うま味は、タンパク質や核酸が食物に含まれている事を感じさせる基本味です。例えばチョコレートや砂糖などで甘みを感じた場合、エネルギーを確保できる事を連想させますし、塩を舐めて塩味を感じれば、ミネラルの存在を感じさせます。
このように五つの基本味にはそれぞれ期待させるものがあるのです。実は大昔の日本人は鰹から「うま味」を感じ取っており、現在の鰹節の原型の「堅魚」という食べ物を食生活の一部に取り入れ重宝しており、タンパク質を確保していたと言われています。
1-3-2 うま味は生命の源
うま味は食べ物の中に含まれている、タンパク質や核酸の手がかりとなるものです。このタンパク質は分解されて容易にアミノ酸に変換されるので、エネルギー確保が出来ます。つまり「うま味」が有る事は自分が生きていける事を認識する成分なのです。
一方「苦味」の食べ物は一般的には体には入れません。つまりそれぞれの味には役目があり、「うま味」が美味しさを表現する言葉ではありますが、生命を維持する為に認識する大切な「味覚」の1つなのです。
1-4 UMAMIとは?
「UMAMI」は、「うま味」を世界に発信する為の言葉です。しかしながら世界で認知されるのには時間がかかりました。「うま味」は東京帝国大学の池田菊苗博士が発見したものです。
昆布からくる美味しい味が「グルタミン酸」だと発見しましたが、「うま味」は「おいしい味」と同じものではなく、あくまでも「味覚」を表現するものです。
「グルタミン酸」自体をそのまま食べても「うま味」は感じられませんが、言葉を訳する時に「おいしい味」と訳されてしまい、混乱を招きました。現在では、世界中で「UMAMI調味料」が使用されたり、うま味成分を感じ取るセンサーが舌に有る事が発見され、世界的に「UMAMI」が認知されています。
以上の事から「旨味」とは美味しさの総称であると言えるでしょう。しかしながら「旨味」は大きな概念ですので、食にまつわる人々、取り分け研究者は「旨味」という言葉を使わないようにしていますが、一般生活の中で、「旨味」と「旨み」と「うま味」がごちゃ混ぜになって、十分な定義が認識されないまま使用されている可能性が非常に高いです。
現在の学会などでは「うま味」という定義がされていますので、「うま味」の表記が支持され、多くの書籍でも題名に「うま味」が使われるようになってきました。ここから表記を「うま味」に統一し、「うま味」そのものについて説明していきたいと思います。
2 うま味成分とは?
今でこそ、「うま味」は「UMAMI」として世界に認知されていますが、どのような物で、どうやって発見されたのでしょうか?
2-1 アミノ酸と核酸
「うま味」を舌に与える物質としてアミノ酸と核酸があります。
2-1-1 アミノ酸の中のグルタミン酸
アミノ酸の中にあるうま味成分のグルタミン酸は、動物と食物の両方にあります。グルタミン酸は熱に強く非常に安定しており、タンパク質の中に含まれていますので、熱を使用した調理後でも変わりません。
タンパク質自体はとても大きな分子ですので、小さな味を確認する舌の味覚センサーで味を確認する事は出来ないのですが、細かくしていきますとアミノ酸に分解され、舌で「うま味」を確認する事ができます。
ちなみに日本でタンパク質を分解するのに使われたのが、微生物による発酵という技術です。例えば麴菌(こうじきん)はタンパク質を分解させる力が強いので、麴による発酵は旨みを高める事が出来るのです。日本人は発酵という技術を使い、食糧の長期保存を目指すと共に、美味しさも手に入れていたのです。
2-1-2 核酸の中のグアニル酸、イノシン酸
核酸類の旨み成分のグアニル酸はキノコ類に多く、イノシン酸は動物性の食材に多く含まれています。核酸の旨みは酵素によって分解されやすいです。
RNAと呼ばれるリボ核酸が含まれており、こちらも巨大な分子ですので味はありませんが、RNAが分解されますと旨みを感じることができます。RNA紐はアデニンやグアニンという単位の長い紐で、バラバラにしますとグアニル酸などになるのです。
動物の体内にはエネルギーを運ぶATP(アデノシン三リン酸)というものがあり、エネルギーの蓄積や放出を行っています。筋肉にはATPが大量に存在しておりますが、死後は活動が停止します。この後にATPは旨みを感じるアデニル酸を発生させ、さらにイノシン酸に分解されるのです。よって動物類が死後数時間から数日で美味しく「うま味」を感じるのはこの為です。
2-2 うま味成分であるグルタミン酸の塩の発見
2-2-1 昆布から発見
うま味成分は日本で発見されたとされ、発見したのは東京帝国大学教授の池田菊苗です。池田氏は京都生まれであり、京都の出汁は昆布であり、幼いころから昆布を使った出汁に慣れ親しんでおりました。
実は現在こそ出汁は鰹節から取る事が主体ですが、江戸時代までは日本中を流通するのは、重い鰹節よりも軽い昆布であり、商業の発展の地が堺をはじめとする近畿地方でしたので、池田氏が昆布に興味を持つことは想像にかたくありません。
池田氏は乾燥昆布を材料に、うま味成分を分離させる事に成功しました。もともと実験の過程で有機酸の塩だと推測していたのですが、グルタミン酸の塩だったのです。
2-2-2 世界では認められなかった「うま味」
実はグルタミン酸というものは既に発見されていたのですが、グルタミン酸自体では美味しさを感じません。グルタミン酸の塩がうま味を感じさせるという事を池田氏が突き止めたのでした。
池田氏は1909年の東京化学会誌において「新調味料に就いて」という題材で、うま味について発表をしております。
日本人には食文化として昆布が定着していた事もあり、日本国内では受け入れられた内容でしたが、先に示したように世界では美味しさを感じないグルタミン酸が先に発見されていたので、池田氏の提唱した内容は世界では受け入れられませんでした。
2-3 鰹節のうま味成分 イノシン酸の発見
池田氏は同時に鰹節のうま味成分にも興味を持っておりました。研究室の小玉新太郎氏に、鰹節のうま味成分を取り除く(分離させる)事を行わせました。その過程で小玉氏はイノシン酸のヒスチジン塩を発見しました。
当時、イノシン酸を発見する事は出来ましたが、上手に抽出して工業化する事は出来ず、大量生産できるようになるのは、昭和30年代になってからです。
2-4 シイタケのうま味成分 グアニル酸とは?
グルタミン酸、イノシン酸の他に、もう1つのうま味成分であるグアニル酸は、国中明氏が発見しました。当初国中氏はイノシン酸のうま味成分を研究していたのですが、その過程の中で、グアニル酸の塩にもうま味が有る事を発見しました。
そしてのちに、中島寛朗氏がグアニル酸の塩がシイタケの中にある事を明らかにしたのです。
2-5 うま味の相乗効果
「うま味」というものは、複数のものを使う事により、相乗効果を引き出します。相乗効果自体を発見したのは国中氏でありますが、うま味の相乗効果は日本が経験的に知っておりました。例えば日本人は、出汁を作る時、グルタミン酸塩を含んでいる昆布とイノシン酸塩を含んでいる鰹節や煮干しで作ります。
とても不思議な事なのですが、どんなに贅沢に昆布を使ってもある一定以上の「美味しさ」を感じる事はありません。また鰹節などは出汁を煮だすお湯以上に鰹節を入れて出汁を取りますと酸味さえ感じる事が有ります。
その代り昆布と鰹節を両方入れて出汁を取りますと、美味しさが倍増するのです。これはアミノ酸と核酸という全く違う「うま味」が、出汁の中で合わさったからです。
「うま味」という成分の存在を知らなくても食べて美味しいという事を感じていた場合、結果的に「うま味」成分が含まれていた可能性が高かったので、出汁を作る時に様々な食材をまぜ、旨味の相乗効果を狙った事が考えられます。
3 うま味受容体
うま味の成分自体は研究によって解明されてきましたが、うま味を感じ取る受容体については発見されてきませんでした。そのような中、2000年代あたりから、うま味成分を感じ取る舌のセンサーの受容体候補が発表されました。
うま味は基本味であることの証拠に成る為、長い間受容体の発見が待たれていたのです。
3-1 そもそも基本味の定義とは
それでは、そもそも基本味になるにはどのような条件が必要になるのでしょうか?
- 明らかに他の基本味とは違う味である。
- ほかの基本味と味がちがっていても、その味が色々な食材に含まれる普遍的な味である
- ほかの基本味を組み合わせても、作りだせない味である
- その味の情報だけを伝える神経線維及び受容体が存在する事により、その味がほかの基本味と独立の味であることが客観的に証明される。
1~3は条件を満たしていたのですが、4のみ発見が遅れていたのです。
3-2 受容体候補の発見
1997年、嗅覚・味覚国際シンポジウムで、マイアミ大学のグループが味蕾(みらい)にうま味受容体が存在するという報告をしました。脳内ではグルタミン酸が神経伝達物質の役割をはたしており、脳の神経の末端に蓄えられており、何らかの刺激により放出されます。
この脳神経にある受容体が数種類有る事が解っており、舌にもグルタミン酸の受容体があると仮定し研究した結果、発見に至りました。この複数ある内の1つの受容体であるmGluR4は舌の他にはなく、味蕾のみに存在していたので、これがうま味の受容体であると発表したのです。
また2002年にカリフォルニア大学のツッカー博士の発表がありました。舌の上でT1R1、T1R3が組み合わさった受容体がうま味を受容するという発表でした。遺伝子配列の解読からタンパク質を解読する技術が進歩してきたので、研究が発展きたのです。うま味以外の味覚受容体の構造が発見され、その中にうま味受容体の発見もあったのです。
以上の事により、うま味の受容体の存在が明らかにされ、日本のうま味が世界では「umami」として認知されたのです。
4 うま味の感覚
成分としてうま味が有る事は説明しましたが、実際我々が「美味しい」「旨い」を感じるのは、総じて感覚的な物なのです。それではうま味の感覚とは一体どんなものなのでしょうか?
4-1「うま味加減」という言葉…?
塩を入れすぎたとか、〇〇を入れすぎたという表現はありますが、うま味が強すぎるという表現はありません。うま味成分は高濃度になっても嫌がられる事が無い為、「うま味加減」や「美味しさ加減」という言葉は聞きません。
その代り不思議な事なのですが、必ずしも贅沢に材料を使っても「うま味」が高まるという事ではなく、むしろ組み合わせによる「相乗効果」によって強いうま味を感じる事ができるのです。
4-2 うま味と温度
出汁は冷たい物より温かい物の方がうま味を感じるとされています。これと同様に甘みは甘みの部分の温度が高くなるとより強く感じられます。これは甘み自体の方ではなく、受容体のほうに温度を感じ取るセンサーがあり、温度が高まると活動が活発になり、甘い信号を神経に送る速度が高くなると考えられています。
しかしながら、同じ味覚でも塩味を感じる受容体には、同様のセンサーが存在しないので、塩味は温度が変化しても感じ方に違いは出ません。うま味の受容体も甘みの受容体と同じような構造になっていると考えれており、温度によりうま味の感じ方がかわるのです。
4-3 赤ちゃんのうま味の感じ方
世界中の料理では「うま味」を美味しさの基本として作られておりますが、赤ちゃんにもうま味を感じ取る味覚センサーの実験を行っており、うま味を感じ取る能力は先天的なものであると証明されています。
また母乳には昆布の出汁と同じぐらいのグルタミン酸が大量に含まれており、微量ながらイノシン酸も含まれている事から、母乳=美味しい物であると赤ちゃんには認識されているはずです。
まとめ
旨味とは美味しい物を大きな括りで説明したものであり、うま味は基本味として発見された成分でした。そしてうま味が世界には、「UMAMI」に代わり発信されていきました。
日本食には沢山の「UMAMI」うま味が含まれており、世界中のシェフが和食を作るために日本に来日されたり、世界中で親しまれるようになりました。これを機会に、ご家庭でもぜひ「うま味」を堪能してみてください。
※参照
和食とうま味のミステリー 河出ブックス 北本勝ひこ 著
だし=うま味の事典 東京堂出版 星名桂治 著
うま味って何だろう 岩波ジュニア新書 栗原堅三 著
うま味の秘密 思文閣出版 伏木亨 著
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