昆布に旨味があることがほどんとの日本人が知っていますが、その「旨味」の由来はなんでしょうか?と疑問に思ったことはありませんか?
昆布の旨味は2つのアミノ酸より由来しています。それは、グルタミン酸とアスパラギン酸です。
この2つのアミノ酸は、多くの食材に含まれ、私たちの体にも存在しています。
昆布の旨味を利用して、減塩料理等の美味しい健康食を作れます。更に、昆布だしを多く摂取することにより、大腸がんの予防になるような研究もあります。
昆布の旨味は昆布だしとして利用することが出来ます。昆布だしの作り方はよく知られている煮だし方法と水だし方法があります。うま味成分物質の回収量の差がないですが、料理に応じて使い分けをお勧めします。
それでは、まず、昆布の旨味成分の由来からお話しします。
目次
1、昆布の旨味は2つのアミノ酸由来
昆布のうま味成分はグルタミン酸とアスパラギン酸です。両方ともアミノ酸です。このアミノ酸は、昆布自体にとって重要な栄養分です。
1-1、グルタミン酸
昆布の旨味成分の由来は主にグルタミン酸からです。昆布中のアミノ酸の20%位を占めています。
グルタミン酸は非常に有名なうま味成分物質です。昔から昆布に含まれる成分は美味しさのもとであることが経験的に知られていましたが、その成分は解明できていませんでした。これを解明したのは、東京帝国大学・池田教授です。昆布から「グルタミン酸」を取り出すことに成功し、昆布だしの主成分を発見しましたし、その味を「旨味」と命名しました。更に、グルタミン酸を主成分とした調味料「グルタミン酸ナトリウム」の製法を確立し、世界初のうま味調味料が誕生しました。この調味料の製法は時代と共に進化し、「うま味調味料」は世界100ヵ国以上で利用されています。
グルタミン酸はほとんどの食材に含まれています。それは、動植物や微生物、私たち人間も含め、生物はみな、生きるために必要なグルタミン酸を、自らの体内で作っているからです。
我々の体の中のグルタミン酸は、脳神経の伝達物質として、脳の活性化とつながり、生命活動を維持するエネルギーを作り出すための、橋渡しの役割を担当しています。
栄養学上、体内で作り出せるアミノ酸は「非必須アミノ酸」、外部から摂取する必要があるアミノ酸を「必須アミノ酸」としています。体内で生成されるが、食品からも積極的に摂取してほしいアミノ酸は「準必須アミノ酸」となります。グルタミン酸は、体に非常に重要な役割を果たしているため、準必須アミノ酸の一つとなっています。
1-2、アスパラギン酸
昆布のうま味成分の中には「アスパラギン酸」も含まれています。人間の旨味受容体を反応させるのでうま味成分物質の一つとなっています。昆布中のアミノ酸の12%ぐらい占めています。
野菜のアスパラガスから発見され、その名称が付けられましたが、実はトマトの味の主成分でもあり、豆類に多く含まれています。
アスパラギン酸は我々の筋肉・内臓・皮膚・血液など、体をつくる成分となるたんぱく質を構成している20種類のアミノ酸の中の1 つです。非必須アミノ酸と分類されており、体内から生成できるといっても、アスパラギン酸は体調を整え、疲労回復や美肌等の効果が期待できますので、積極的に食品からの摂取することをお勧めします。
アスパラギン酸について記事はこちらへ「疲労回復効果を持つうま味成分アスパラギン酸の働きとお勧め食材」
その他に「旨味」と関連するうま味成分物質は、アスパラギン酸、イノシン酸、グアニル酸とコハク酸があります。その他のうま味成分物質を多く含む食材に関しては、「うま味が多く含まれている代表的な食材と相乗効果を生み出す組み合わせ」の記事をご覧になってください。
以上、昆布の「旨味」となる成分物質は、グルタミン酸とアスパラギン酸、この2つのアミノ酸となります。
食品業界では、アミノ酸の含有量を旨味含有量として扱っているところがあります。それは、アミノ酸豊富な食材は味が美味しいからです。旨味とアミノ酸は「旨味とアミノ酸の関係とは?旨味を構成する2つのアミノ酸を徹底解説」に詳しく説明しております、興味ある方は、ぜひ読んでみてください。
このうま味成分は昆布の種類や部位により異なります。次の章では、これらの違いについて紹介していきます。
2、昆布のうま味成分物質含有量
2-1、昆布の種類とうま味成分物質含有量
昆布の種類は、北海道の地名から付けられることが多いです。日本では、14属45種類あると言われていますが、実際に、よく使われるのは7種類ぐらいです。それぞれのうま味成分物質の含有量は違います。更にアミノ酸の含有量が多いほど味が美味しく感じるため、合計アミノ酸含有量もまとめました。
*日本食品成分表 アミノ酸、脂肪酸、炭水化物編
うま味成分物質を一番多く含むのは、羅臼昆布でした。うま味成分物質は合わせて3700㎎/100gでした。羅臼昆布の特徴としては、だし汁が濁る特徴がありますが、香りが良く黄色を帯びた良質なだしを取ることが出来ます。味は濃厚で、味噌汁や煮物に用いられます。
二番目は長昆布でした。うま味成分物質は合計で2800㎎/100gでした。長さが6~15メートルにもなり、製造量が最も多い種類です。だし昆布には向いていませんですが、昆布巻きやおでん昆布、佃煮等の加工品に使われています。
三番目は真昆布でした。長昆布とは100㎎の差で、真昆布は三番目、うま味成分物質は合計で2700㎎/100gでした。真昆布は最も代表的昆布です。肉厚で幅も広く、見た目の良さと味のおいしさで最高級の昆布と言われています。一番だしによく使われ、繊維質が柔らかいため、佃煮としても使用されています。
筆者のお勧めの昆布は、「日高昆布」です。スーパーによく並んでおり、利尻昆布と比べると粘りが少ないです。
2-2、昆布の部位による旨味
昆布本体におけるアミノ態窒素*1の分布は下記のように。数値は昆布100g相当におけるmg数で表示しています。色は濃いほど数値が高いとなります。
*熊倉功夫, 伏木亨, (2012). 『だしとは何か』. アイ.ケイコーポレーションより
この図のように、昆布の中央部および根にかけてアミノ窒素の含量が多く、両側面は比較的含有量が少ないことがわかりました。
理由として、昆布は、海の中から栄養分吸収して成長して行きます。海中を泳いでいる葉の先端部分は一番先に出来た部分で、その葉先が吸収した栄養分が成長点となる根へ送り集め、成長して行くのです。
そのため、一番下の部分(いわゆる根昆布)に昆布の「成長点」となり、一番栄養分がたまっています。うま味成分となるアミノ酸もこの部位で豊富に含有しています。
スーパーでは買い物する時、「根昆布」という商品あると思います。このような商品がお勧めです。
*1 アミノ態窒素とは、アミンとして存在する窒素の総称。すなわちアミノ基(-NH2)を含む有機物中の窒素をアミノ態窒素と呼びます。出汁や醤油等の中ででは、旨味含有量と関与する指標としています。この数値が高いほど、アミノ酸が多く存在し、美味しいとされています。
3、昆布の旨味を利用することによる2つのメリット
昆布の旨味を利用することで、健康に良い減塩食を作ることが可能です。更に、昆布のうま味成分物質のグルタミン酸を多く摂取することにより、大腸がんの予防をできるという研究もありました。
3-1、昆布のうま味と減塩料理
減塩料理の一番の難点は、塩分を控えめにすると、味気がなくなることです。例えば、病院食では、塩分を減らすると、完食できず、栄養不足になってしまうこともあります。
そのため、昆布のうま味に注目し、昆布だし等を活用して行けば、塩分の一部分をうま味で入れ替えすることが出来、もともとのおいしさは失わずに塩分量を減らすことが出来ます。
昆布のうま味とその他の食材のうま味成分を組み合わせると、「旨味の相乗効果」が発生し、「旨味」を強く感じますので、料理はさらに美味しく感じることが可能です。
旨味の相乗効果の詳しい記事はこちらへ「うま味の相乗効果を科学的に説明、今すぐ使える活用例までの紹介」
3-2、昆布のうま味成分と大腸がん予防
最新の研究により、「グルタミン酸」を食事から多くとっている人では、大腸がんになる危険性が最大で4割低下するとの結果でした。
研究に参加したのは1990年に55歳以上のオランダ人男女5,362人。食事内容のアンケート調査からグルタミン酸の摂取量を推算した結果、グルタミン酸摂取量が多い人は、そうでない人に比べ、大腸がん発症リスクが22%低下していました。さらに、BMI(体格指数)が25以下の人では、食事からのグルタミン酸摂取量が1%増加すると、大腸がん発症リスクが42%低下しました。
さらに、うま味(グルタミン酸)受容体は腸内にも存在し、うま味成分(グルタミン酸)は栄養素の効果と腸の消化を調節し、健康な日常生活を維持する上で重要であることを示唆しています。「Baseline dietary glutamic acid intake and the risk of colorectal cancer: The Rotterdam study」
このように、昆布のうま味成分は日本だけではなく、世界中にも注目を浴びています。
4、昆布のうま味は出汁で取る
昆布のうま味成分、グルタミン酸とアスパラギン酸は、水に溶ける性質を持っています。そのため、昆布でだしを取って摂取することが有効です。昆布だしの取り方は2つあります。煮出し法と水出し法です。
○煮出し方法 ― 乾燥昆布を表面のホコリや砂を固く絞った布で拭いた後に、水に約1時間水戻しをした後、沸騰直前まで加熱。昆布を取り除けば完成です。
煮出し方法は、短時間でうま味成分の抽出が可能です。しかし、加熱途中で、雑味となる味成分も一緒に溶けだすことや香り成分が水蒸気と一緒に飛んでしまうことがあります。
○水出し方法 ― 乾燥昆布を表面のホコリや砂を固く絞った布で拭いた後に、水に8時間以上(一晩ぐらい)漬けこんだ後、昆布を取り除けば完成です。
水出し方法は、時間かけてうま味成分溶出させていまます。上品な甘さ、香りを有する昆布だしを得ることが可能です。
この2つのだし取り方法で、うま味成分の量が変わることはありません。しかし、料理に応じて、煮出しが水出しかを使い分けることで、より美味しい料理が作ることが出来ます。例えば、味の濃い料理に使うなら煮出し方法での昆布だしを使用、お吸い物であれば、水出し方法での昆布だしを使うとより美味しい料理が出来ます。
昆布だしの作り方の詳細は「[実用版]時短・簡単・美味しい「昆布だし」取り方及びその活用法」を参考して頂ければ幸いです。
以上のことから、昆布の旨味はグルタミン酸とアスパラギン酸、この2つのアミノ酸の由来です。これらは、多くの食材に含まれており、私たちの体の栄養分となっています。
昆布の旨味の利用は、料理の世界だけではなく、栄養食等にも注目を浴びています。ご家庭でも、昆布だしを使えば、簡単に昆布の旨味を利用することが出来ますので、是非試してみてください。
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